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第18回 台北市長選・柯文哲候補が吹き込む新たな風


ニュース 政治 作成日:2014年9月19日_記事番号:T00052783

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第18回 台北市長選・柯文哲候補が吹き込む新たな風

 台北市長選挙が最初のヤマ場を迎えている。連戦・国民党名誉主席の長男、連勝文候補(44)と、野党陣営代表の台湾大学医学院附設医院(台大医院)創傷医学部教授、柯文哲候補(55)の事実上の一騎打ちである選挙戦は、連候補が「特権階級」イメージが嫌われて支持率が上がらない中、柯候補がリードする展開だったが、9月に入り柯候補に失言が相次ぎ、両者の距離がやや縮まり始めていた。


柯候補は羅立法委員の指摘全てに明快に答えたわけではなかったが、当面の火消しに成功した(中央社)

 柯候補のイメージを特に落としていたのは、2003年台大医院に「MG149」という口座を私的に設け、脱税に使っていたという指摘だ。告発した国民党の羅淑蕾立法委員(61、台北市)は会計士出身で、実力派立法委員として実績に一定の評価があるため、全く裏付けのない指弾ではないのではないかと思われた。連候補は羅立法委員の発言を支持し、柯候補に不明朗な金銭を説明せよと迫った。

 柯候補はこれに対し18日の記者会見で、口座は台大医院が設置した合法的なもので、企業・個人からの献金受け付けの窓口となり、同時に公共性を持つ団体への献金も可能で、それは合法的な節税に当たると釈明した。そして一転、1995年から昨年まで18年間の所得税源泉徴収票と財産、選挙費用などを全て公開すると宣言した。自身の財産は仕事を通じて得たものだと主張した一方で、財産目録上は車も家も持っていないはずなのに、連候補はポルシェを運転し、最高級住宅「宏盛帝宝」(台北市仁愛路)に住み、複数の投資会社を運営しているとして、所得状況と財産、選挙経費を自身と同じように公開するよう訴えた。「あなたに果たして財産の清潔さを議論する資格があるのか」と、連候補への反撃に出たのだった。連候補はこれに対し「連家の財産は父が総統選に出馬した際に、自分の財産も台北悠悠カード公司の董事長を務めた際に全て調べられており全く問題はない」として、財産を公開する考えのないことを示した。

「青か緑か」からの脱却

 台湾の選挙に中傷合戦は付き物だが、今回のMG149問題をめぐる動きから、旧態依然の選挙をやろうとしている連陣営と、新しい風を吹かせようとしている柯候補の対比が見て取れる。

 旧態依然の選挙とはすなわち「青(国民党)か緑(民進党)か」の選択であり、「統一か独立か」「親中か反中か」「中華民国擁護か否か」などさまざまな定義ができるが、台湾の場合、総統選のみならず地方首長を選ぶ際もこのイデオロギーが投票の最大要因だ。このため、例えば桃園県では県長と全選挙区の立法委員が国民党である一方、台南市はその正反対といった現状になっている。つい4年前の台北市長選でも、筆者がある国民党系の退役軍人などが多い集会を取材した際、最も盛り上がったのは「これは中華民国を守る戦いだ!」という呼び掛けが行われた瞬間だった。

 しかし、台北市の民生と中華民国の擁護に何の関係があるのだろうか。地方行政の能力に長けた政治家がいたとしても、「青か緑か」のイデオロギー最優先では自治の発展を妨げる恐れはないか。こうした議論は以前からあったが、この弊害を感じていた民進党所属でない柯候補が出馬したことで、初めて転換の契機が生まれている。

 柯候補は財産を徹底公開しようという姿勢もまれながら、選挙戦で旗やのぼりを立てず、新聞広告も出さず、動員集会も行わない方針を打ち出している。また、基本的に連候補や国民党の批判は行わず、住宅や交通など身近な行政問題で自身の主張の展開を続けている。

 連候補が「青か緑か」の選挙戦をやりたいのは、国民党が本来圧倒的に強い台北市ではその方が有利だからだ。民進党勢力を批判すると血が沸き立つ有権者も多く、連陣営は今のような静かな選挙戦のままでは支持層の投票意欲が盛り上がらないのではないかという不安感を抱えていよう。

 いずれまた中傷合戦的な場面は出てこようが、台北市長選が最後まで脱イデオロギー的な展開を保てた場合、柯候補は勝敗がどうであろうと、地方選挙の健全化に貢献したという評価が与えられるはずだ。

イメージCM失敗

 ところで連候補だが、最近特権階級イメージを逆手に取ったテレビCM(https://www.youtube.com/watch?v=7kKDIAdhi3M)を打ち出して話題になっている。「連勝文と同じような金持ちだったらどうする?」という質問に対し、若者たちが「毎日ショッピングする」「信義区で豪邸を買う」「不動産や株の投機に使う」「遊び続ける」「何もしない」「もし自分だったら選挙には出馬しない」などと答え、最後に連候補が出てきて「市民の心に希望の種をまきたい」と語るもので、「裕福でありながら公に尽くす意欲を持つ連候補」という姿を印象付けることを狙ったものとみられている。


連候補にとって初のテレビCMだったが、放映しない方がよかったのではないか(YouTubeより)

 ところが、「結局彼が特権階級であることを思い起こさせるだけ」と不評で、早速ネット上では、連候補の「市長になって」というせりふの後に「何もしない」や「遊び続ける」という若者の言葉が続くよう勝手に編集されたバージョン(https://www.youtube.com/watch?v=OdLypEqn6w4)が登場し、笑いの的になっている。台湾人はこういう諧謔(かいぎゃく)には抜群の能力を見せるのだ。

 しかも、出演した若い女性2人から「選挙広告と知らされていなかった」「知らされず、自分の理念と正反対のものに出てしまった」との苦情が相次ぎ、「まだ当選もしていないのに人を騙すとはひどい」との批判も巻き起こった。連候補にとってイメージアップの道はまだまだ遠いようだ。

ワイズニュース編集長 吉川直矢 

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