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第38回 戦後70年談話、台湾メディアはどう報じたか


ニュース 政治 作成日:2015年8月21日_記事番号:T00058845

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第38回 戦後70年談話、台湾メディアはどう報じたか

 先週14日に発表された安倍晋三首相による戦後70年談話は、先の大戦での日本の行為に歴代内閣の立場を引き継いで謝罪と反省を述べるとともに、日本が謝罪外交の終息を目指すと表明したことに大きな意義があった。

 中国や韓国は予想通り否定的な反応を見せた一方、台湾は外交面での得点を得た。安倍首相は「先の大戦への痛切な反省と心からのおわびの気持ちを実際の行動で示すため、インドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など、隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻む」と述べ、台湾をアジア各国と同列に扱うとともに韓国と中国の前に置いた。安倍政権以前では考えられなかったことで、中国共産党機関紙、人民日報の国際版である環球時報は「『一つの中国』の原則に深刻に違反する」と批判した。

 安倍首相が台湾を特に取り上げたのは、かつて日本の一部として共に戦った歴史への感謝とおわびを土台に、「大切な友人」にふさわしい対応をし、さらに延々と謝罪要求を繰り返す韓国と中国にくぎを刺す意図が含まれていると思われる。台湾にとっては、韓国や中国よりも友好関係を重視していると明言されたに等しい。全世界から注目されたため、国際社会における存在感向上という面でもプラスだった。


公の場で台湾を高く評価する安倍首相(右)の姿勢は一貫している(中央社)

完全スルーの大手紙も

 ところが、台湾メディアの反応は冷めたもので、大手紙でこの部分を解説付きで報じたのは16日付自由時報のオピニオン欄だけだった。聯合報に至っては一切報じていない。15日付自由時報、中国時報、蘋果日報は談話のこの部分をそのまま掲載したが「韓国と中国の前」などの説明はなく、安倍政権による重視姿勢は台湾住民に伝わらなかった。インターネット上では話題になったため、一部のネットユーザーが知ったにすぎない。

 筆者は外交部に、安倍談話の台湾に触れた部分をどう受け止めたかについて問い合わせたところ、10時間以上回答を保留された末、「安倍談話に対する見解は既に発表した政府談話が全てで、細部についてはコメントできない」という答えが返ってきた。中国との関係上、評価するとの見解を表明するのは難しいのだろう。ちなみに台湾政府の公式見解は「日本政府が歴史の事実を正視して深く反省し、前向きな思考と責任ある態度で周辺国との友好協力関係を発展させることを望む」というもので、インドネシアやフィリピンが支持を表明したのとは対照的な反応だった。

謝罪外交終息を疑問視

 謝罪外交の終息については、「できるかどうか不透明」との論調が目立った。

 15日聯合報は社説で「日本政府は第二次世界大戦の侵略の歴史に対し一度も正式に謝ったことがない。謝罪外交を終えられるかは簡単ではない」と指摘した。中国時報は「今後の世代は謝罪を続けるべきではないという主張が論議呼ぶ」という見出しを掲げ、あたかも日本は永遠に謝罪を続けるべきとの立場を示すとともに、「安倍首相が言葉通りに振る舞わなければ、謝罪と反省はこれからも日本国民の重い負担となる」との学者の談話を掲載した。

 改めて指摘するまでもないが、日本政府は日中国交正常化を果たした田中角栄以降、歴代首相が近隣諸国への謝罪の言葉を繰り返し述べている。中華民国政府は台湾の日本資産を没収した一方、1952年の日華平和条約で対日賠償請求を放棄した。また、台湾は戦時中日本領だったため日本に賠償義務はない。

変わらぬ非寛容


馬英九総統は18日、訪台した自民党青年局訪台団に対し、安倍首相は慰安婦問題で謝罪しなかったと批判した(中央社)

 聯合報や中国時報に見られるような、歴史の事実を直視せず、自分に都合の良い主張ばかりを展開する非寛容な姿勢が相手では、日本が謝罪外交を終わらせることは確かに困難だ。日本側も例えばいわゆる慰安婦問題で、歴史の歪曲(わいきょく)に堂々と反論をしてこなかった結果、永遠に謝罪しなければならないほどの道義上の問題があったとの先入観を、中国と韓国、および台湾の一部の人々に植え付けてしまったことが台湾の報道から見て取れる。台湾メディアによる今回の残念な反応を見るにつけ、謝罪外交の流れを確定させてしまった河野談話や村山談話の罪深さに改めて嘆息せざるを得ない。安倍首相の戦後70年談話が悪しき戦後を終わらせる転換点になることを望みたいが、それにはまだまだ時間がかかりそうだ。

ワイズニュース編集長 吉川直矢
 

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