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転落の一途、光ディスク媒体事業が縮小する訳


リサーチ 経営 台湾事情 作成日:2010年11月11日

Y'sの業界レポート

転落の一途、光ディスク媒体事業が縮小する訳

記事番号:T00026473

 台湾は、DVDやCDといった光ディスク媒体を世界で最も多く生産している。しかし、その需要が今後減り続ける一方なのは疑いようがない。光ディスクメーカーなどが集まる日本記録メディア工業会(JRIA)自身が、光ディスクの世界需要はどんどん減っていくという見通しを発表している(図1)。台湾メーカーは収益力の急低下が始まり、新規事業に活路を求めている。なぜこのような事態に陥ったのか。各種の統計や技術の変遷から探っていこう。

世界シェアは63%

 台湾の光ディスク生産量は2009年で121億枚。世界における生産シェア63%を占めた(図2)。しかし「光ディスク生産大国」台湾も、生産量を減らしている。光電科技工業協進会(PIDA)によると、2007年に131億枚だった台湾の光ディスク生産量は、2009年には121億枚に減少した。ディスク製造から撤退を迫られた中小メーカーも出ている(図3)。

 台湾で生産されたDVDは、パナソニックやTDKといった企業のブランドを付けられることが多い。日本生産品を中心に光ディスクを販売している日本企業は現在、CD−R(データを1回だけ書き込み可能なCD)の開発元として名高い太陽誘電だけである。

 ただし、その太陽誘電も円高などを理由に、光ディスクの月産量を1億1,000万枚から6,500万枚に減らす見通しだ。同社以外の日本メーカーは、高価なブルーレイディスク(BD)を製造することで日本の工場を維持しているものの、既にその生産委託も始まっている。

上昇し続ける生産コスト

 生産量が減少した背景には、(1)生産コストの上昇、(2)光ディスクを不要にする異なる種類の記録媒体やWebサービスの発展──がある。(1)の生産コストのうち、初期投資に当たる自動化設備の購入費用は、ディスクの高容量化によって高くなっている。台湾経済研究院によれば、生産ラインの新設コストはCD−Rの場合に約6000万台湾元、DVDでは1億元以上、BDはDVDを大きく超えるという。

 ディスク製造事業におけるランニング・コストを左右する材料の価格も高くなった。中でも、光ディスクメーカーの頭を悩ませたのが、樹脂の一種であるポリカーボネート(PC)である。PCは光ディスクの製造コストの約半分を占めている。この高価な部材はサプライヤーが少ない。このため価格が売り手主導で決まる。

 しかし、光ディスクは買い手主導で価格が決まる。この結果、昨年末から今年春にかけて光ディスク媒体のメーカーは、利益を得られなくなった。PCの価格は40%上昇したのに、中環(CMCマグネティクス)による光ディスク価格の値上げ幅は約30%にとどまった。

 しかもPCは、価格変動が激しい(図4)。2009年の景気回復により、PC需要が他産業で増えた。これに応えるため、PCメーカーは光ディスク用PCを減産したので、大幅に値上がりした。2009年第3四半期に1.5米ドル/kgだったPC価格は、今年第2四半期に2.9米ドル/kgに上昇。これにより光ディスクの製造コストは、40~50%高騰してしまった。

安くて速い代替メディア

 (2)として挙げた異なる記録媒体とは、HDDとフラッシュメモリである。特にHDDは、記録容量当たりの製造コストが格段に低下した。データをより高密度に記録する技術が進化したためだ。特に2005年には、ビットを縦に配置する垂直磁気記録が実用化された。この後もHDDの記録密度は高まっているが、こうした技術進展は光ディスクにはないものである。

 HDDと同様、フラッシュメモリも、低価格・大容量化が進んだ。今や1ギガバイト(GB)当たりの単価は光ディスクより安くなっている(表1)。加えてDVDは、メモリーカードなどよりもアクセス速度が遅い。つまり、光ディスクは金額的にも速度的にも他の記録媒体より劣っているのだ。

ゲームやPCソフトもディスク要らず

 さらには、ユーザー間のデータの受け渡しで、光ディスクを用いないことが当たり前になった。ブロードバンドの普及によってWebサービスという「見えない強敵」が登場したのだ。代表例は2005年に登場した「Youtube」である。大容量のビデオ映像を簡単にアップロードできる、この斬新なWebサービスは、瞬く間に絶大な人気を博した。加えて「Facebook」のようなSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は写真データなどの共有を可能にした。

 ゲームやパソコン用ソフトウエアの分野でも光ディスクの需要は減る一方だ。デジタルコンテンツ協会(DCIJ)の調査は、日本においてインターネットと携帯電話網を通じた配信が着実に増えたことを示している(図5)。ソニーが運営するゲームや映画の流通サービス「PlayStation Network」は、アカウント数が既に5,000万件を超えた。

 パソコン用ソフトウエアにおける光ディスク不要論者の急先鋒は、米アップル社である。同社は、「Mac Book Air」(第2世代機)のクリーンインストール用に、光ディスクではなくUSBメモリを添付した。同社は「Mac App Store」というパソコン用ソフトウエアの流通サービスも行っている。

2年連続の赤字

 斜陽の光ディスク業界で、世界1位と2位の企業はいずれも台湾メーカーだ。しかし、こうした事業環境により苦しんでいる。錸徳科技(Ritek、ライテック)と中環(CMC)は、いずれも2008年、2009年と2年連続で赤字決算なった。(表2)。しかも生産設備を過剰に保有している。RitekとCMCの機械設備回転率(設備/売上高)は、0.36と0.4と低水準である。

 こうした中、両社をはじめ業界各社は太陽電池の生産など事業の多角化推進を図っている(表3)。既存設備と技術を新規事業に生かすと各社は説明しているが、実態は必ずしもそうではない。光ディスク事業に向けて購入した設備のローン返済および減価償却はまだ終っていないからだ。斜陽となった光ディスク産業から、ともかく逃げ出そうという意図が各社の説明からは感じられる。

単層BDも道険し

 光ディスク事業を放棄したメーカーもある。2010年1月、達信(Daxson、ダクソン)は光ディスクの生産から撤退した。同社は偏光板と光学フィルムに経営資源を集中する方針だ。ただし、過去に成功を収めた大手メーカーはここまで思い切った決断は難しい。そこで当面は伸びが見込める単層BD(記録容量は25GB)の生産受託に、望みを託している。現状は日本でばかり消費されている単層BDだが、これが世界で普及する可能性がある(図6)。

 実際、CMCやRitekは単層BDの生産能力を急速に伸ばした。とはいえ、中小メーカーの遠茂光電(Optodisc、オプトディスク)や浩瀚數位(Infomedia、インフォメディア)も開発および生産を開始している。このため、将来的には競争激化によって単層BDの利益率はDVDに近い水準まで落ちると考えられる。

 大容量化、超長期保存対応などによって光ディスクを延命しよう動きは今も確かに存在する。しかし、代替メディアやWebサービスは安く、速く、便利である。今のままでは、レーザーディスクの登場(1980年)から半世紀を待たずに、光ディスクの歴史は終わってしまう。

 

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