コラム

記事番号:T00010589
2008年10月1日0:00
 
 台湾で生活をしていて、ずいぶんタクシーを利用する機会が増えました。タクシーに乗り、運転手さんに、こちらが日本人でしかも少し中国語が分かることが知られると、たいてい質問攻勢が始まります。「結婚してるの?」「どんな会社に勤めてるの?」「給料はいくらぐらい?」…などなど。気持ちにゆとりがあるときはいいのですが、疲れているときは正直閉口してしまいます。

「郷に入れば郷に従え」が基本
 
 特に所得について、「○万元?△万元?」としつこく食い下がられると、以前は「プライバシーにかかわることを他人にずけずけ尋ねるなんて失礼では…」と不快な気持ちになったりもしました。が、そのうち気づきました。台湾で他人に所得を尋ねるのは、特に珍しいことでも失礼なことでもない普通の習慣だということです。実際、台湾生活で初対面で所得を尋ねられた経験はタクシー運転手に限ったことではなく、また、「なぜか社員同士が互いの給与を知っている」というのもよくうかがう話です。
 
 日本では一般に「他人や自身の給与について他人とあからさまに話すことは好ましくない」という習慣があり、上述のような異文化ストレスが生じてしまいます。しかし、一方的に自分や自国の基準で物事を量るよりも、その社会の文化や習慣を理解することが重要だと思います。日本文化は誇れるものもありますが、それがすべて世界スタンダードであるとは限らないからです。
 
 今では私も、タクシー運転手に「給料いくら?」と聞かれれば、「いくらだと思う?…ふふん、秘密~っ」と言ってのける「技」も身に付けました。できるだけ「郷に入れば郷に従え」の精神で臨むこと、それが異文化ストレスを減らす術だと考えています。

日本人経営者を悩ませる「始業15分間の怪」
 
 話は変わり、日系企業の経営者からよくうかがう労務のご相談に「社員の遅刻」があります。

 特にタイムカードを設置していない企業では、始業時間を過ぎた数分の間にバラバラと出社する社員が多いとお悩みです。経営者いわく、「遅れたことに悪びれた様子もなく、席に着き持参した朝食を食べ始める」「まれなことではなく、ほぼ毎日、常習犯的な遅刻」…とのありさまです。

 その取り締り策として「賃金控除」があります。台湾の労働法でも「遅刻による未就業の時間」について賃金を控除することが認められています。この賃金控除の規則を取り入れている企業は多いのですが、その控除の仕組みをうかがってみると…「?!」これまた摩訶不思議な台湾ルールが潜んでいました。

 それは「始業時間から15分以内の遅刻は『許容範囲』として賃金控除しない」(例:始業時間9時の場合、9時15分過ぎた遅刻時間を賃金控除の対象とする)というルールです。これは特定の1社に限ったことではなく、私がうかがい知る多くの在台日系企業が同ルールを適用されていました。

 こうしたルールを適用している会社の台湾人幹部数人に、ルールの真相を尋ねてみると、「台湾の交通事情は芳しいものでないため、労働者に対する配慮の許容15分間」として設定された「台湾では一般的な(?!)暗黙のルール」という答えが等しく返ってきました。(このルール、「知らぬは日本人経営者ばかりなり」のケースもあり、一度自社の「運用ルール」を確認されてみてはいかがでしょうか?) ともあれ、「台湾の習慣による暗黙のルール」という印籠を突きつけられ、理解ある日本人経営者は「まあ致し方ないな…」と同ルールの適用を受け入れ、依然「始業15分間の怪」に悩まされる日々を送られている方もいらっしゃいます。

 「台湾の交通事情が良くないのが周知の事実であれば『朝、早めに家を出る』といった手段を講じるべきでは?」と考えるのは、日本人の偏った考えでしょうか?労働の対価としてお給料を頂いている以上、やむを得ない場合を除き、「就業時間までに会社へ到着し、就業時間と同時に仕事が開始できる状態にする」姿勢は、国・地域を問わず、社員に求められるべきものであると思います。

 上述のような、社会習慣を逆手にとった「甘えの規律違反」は道理にかなうものではなく、そもそも「賃金控除されないために遅刻しない」のでは、本末転倒ともいえます。工場の生産ラインに就く作業員は、機械の稼働に合わせて作業を進める必要性から、否が応でも始業時間を遵守せざるを得ない状況にあります。一方、オフィスで働く従業員の場合、作業員のような規制はそれほど強くなく、始業時間の遵守は個人に委ねられますが、それゆえ個人の規律がより求められることになるのだと思います。

ワイズコンサルティング 宮本美子