記事番号:T00016897
●台湾住民の死因ワースト1位は?
「一時の安息か、それとも…」
在台日系電子部品企業の総経理Y氏は、ここ1年間の自社の受注状況を分析しながらつぶやいた。金融危機に伴う不況の影響で同社も業績低迷を余儀なくされたが、ここ2、3カ月はコンシューマ向け電子製品の受注が徐々に伸びを見せ始めていた。やっと長いトンネルをくぐり抜けた感がある一方、いつまたトンネルに逆戻りしかねない不安定な現状に、いまだ気が抜けないY氏だった。そんな総経理の心中を知ってか知らずか、昼食後のひと時、従業員たちの談笑する声がオフィスを包んでいた。
「みんなで何を話してるの?楽しそうだね」
「あ、総経理」
談笑の中心には、中国語の新聞を広げた台湾人のC管理部長がいた。今年50歳で、日本語能力の高さは買っていたが、持ち前の人の良さが玉に傷な性分だった(詳しくは、事件簿5&6をご覧下さい)。
C管理部長:この新聞記事に、「腸がん症候群・危険度チェック診断」が載っていまして、私がやってみたら見事に「危険度高」の領域に入ってしまったんです。
Y総経理:腸がん症候群?
C管理部長:行政院衛生署の統計によると、昨年台湾住民の死因ワースト10の1位はがんで、中でも直腸がんの発生率は高いそうです。生活習慣病であるとも言われています。この診断分類によると、運動不足の「無精族」、不規則な生活で睡眠不足の「パンダ族」、栄養アンバランスの「外食族」、油物・刺激物が好きな「辛いもの好き族」が「危険度高」候補なのだそうです。
Y総経理:うわ、私もかなりの「危険度高」候補だよ(次の健康診断までに何とか生活を改善しないと結果が恐いな…。うん?)。あれ?ところでCさん、うちの会社は健康診断を実施してるのかな?
C管理部長:健康診断ですか?さぁ、どうだったでしょうか…
Y総経理:日本の本社は1年に1回の実施が義務付けられているけど。台湾には特に決まりはないのかな?
C管理部長:う~ん、あ!思い出しました。5、6年前に一度本社の人事からの指示で実施したことがありました。でもそれ以降…誰からも指示がなかったので…。あ、その時実施した検査項目はこれです。
C管理部長から手渡されたファイルには、すべて中国語で検査項目が並んでいた。
Y総経理:う~ん、これがどれほどのレベルの検査項目かさっぱり分からないな。うん?人によって受けた検査項目が違ってたのかな?
C管理部長:はい。そうだ!費用が一番高い人で6,000元もしましたよ!
Y総経理:どういう基準で検査レベルを設定したの?年齢とか?
C管理部長:いいえ、「勤続年数」の長さです!費用は会社負担ですから、会社への貢献度を考慮して設定しました。
Y総経理:勤続年数?ダメだよ、それじゃあ!あぁ、だからこの勤続年数が長い20代と勤続年数が短い40代の検査項目の内容が逆転してるんだ!至急、改めて法律を確認の上、設定基準も再検討してやり直して下さいっ!
●解説
台湾でも日本と同様「労工(労働者)安全衛生法」という法令に、健康診断の規定が設けられています。内容もほぼ同じで「従業員雇用時」と「在職中定期」に従業員に健診を受けさせ、その費用は会社が負担するというものです。
さらに、同法細則の「労工(労働者)健康保護規則」の第10条~12条には検査項目の指定のほか、定期健診の実施基準が定められています。
1.採用時実施:全員
2.定期に実施:
1)満65歳以上の者(1年に1回)
2)満40歳以上65歳未満の者(3年に1回)
3)40歳未満の者(5年に1回)
健康診断を在職中定期的に実施している企業はあっても、採用時に実施している企業は(工場や特殊業務に従事する者に対する措置を除けば)、まれではないかと思われます。一方、日本本社に倣って、採用時に従業員に会社へ提出を求める資料に健康診断書を含めている在台日系企業もあります。
また、これらとは別に、特殊な危険業務に従事する従業員についての検査項目および健診実施基準の定めも別途あります。なお、上述の規定に違反した場合は「3万元以上6万元以下の罰金」との罰則も定められています。
「健康診断実施」は一見、福利措置とのみ捉えられがちですが、従業員の健康管理は企業の義務であり、また「伝染病感染防止」や「労災発生時の判断基準(持病か業務に起因するか)」というリスク回避にもつながります。台湾にも健診所併設の医院や、健診専門所もあり、検査コースや費用もさまざまですが、未実施の企業はご検討されてみてはいかがでしょうか?
ワイズコンサルティング 宮本美子