事件簿28  経歴詐称による解雇は違法?


コラム 人事労務 作成日:2010年10月5日

労務コンサルタントの事件簿 労務問題Q&A

事件簿28  経歴詐称による解雇は違法?

記事番号:T00025690

採用を有利にするための嘘

 在台日系企業のY社は電気部品製造メーカー。総経理の岡本氏は日本本社では技術職にあったが、台湾支社に赴任してからは経営を任されている。赴任以前は経営の経験は全くなく、異国の地で不慣れな仕事に四苦八苦しながらも、1年が過ぎたところだ。本日も業務に忙殺されているところ、管理部の蔡部長が少し困ったような面持ちで岡本氏のところまでやって来た。
 
蔡部長:岡本総経理、一件ご相談があります。

岡本総経理:蔡部長か、何だね?

蔡部長:はい、実は私の部門で半年ほど前に採用した王くんのことなのですが…。

岡本総経理:王くん?あぁ、あの元気のいい新人くんか、彼がどうかしたのかね?

蔡部長:え〜、実はですね、先日、彼が面接時に学歴をごまかしていたことが発覚しまして…。

岡本総経理:…どういうことかな?

蔡部長:はい、実は彼が面接時に提出した履歴書には、台湾大学経済学部卒業と記載してあったのですが、実は全く別の大学の出身だということが分かりまして…。台湾大学とでも言えば面接が有利に運ぶと思ったのでしょうかね。

岡本総経理:…それは本当なのかね。

蔡部長:はい、私からも王くんに直接確認したところ、面接時に学歴を詐称したことを認めていました。

岡本総経理:……。

蔡部長:まぁ、厳しく注意はしておきましたが、特に業務に支障が起きているわけではなく。総経理にはとりあえず、ご報告をと思いまして。

 王社員の面接には岡本氏も立ち会っていた。台湾に来てから初の採用面接で蔡部長に任せっきりにしていたのだ。あのときは出身大学をごまかしているとは疑いもしなかったが…。

 岡本氏は報告を受けてから頭を悩ませていたが、数日後、王社員を呼び出した。

岡本総経理:王くん、君は面接時に提出した履歴書で学歴を詐称していたね?

王:…はい。台湾大学と書いてある方が採用されやすいと思いまして、つい…。

岡本総経理:君が仕事はよくやっているのは認める、だが会社としては詐称をするような者に重要な仕事を任せるわけにはいかないと思っている。

王:そうですか、確かに申し訳ないとは思っています。しかし、もう過ぎたことですし、そのことに関して今まで特に問題は起きてないと思いますが?

 全く反省の色がない王社員の態度に岡本氏はあきれてものも言えなかった。今回は厳しく注意しただけで済ませたが、王社員の横柄な態度は許しがたい。

(岡本総経理:学歴の詐称は軽犯罪だ…。できれば懲戒解雇処分にしたいが、台湾の法律は一体どうなっているんだろう…?)

解説

 さて、台湾の法律では王社員を懲戒解雇処分にできるのでしょうか?

 労働基準法第12条(無予告解雇)によると、「労働契約を締結する際に虚偽の意思表示で雇用者の判断を誤らせ、その誤認が雇用者に損害を与える恐れがある場合(第1款)」には雇用者は予告せずに契約を解除することができるとあります。

 上記事例の場合、王社員の面接時の学歴詐称は、採用の判断を誤らせた可能性があります。しかしながら、虚偽が発覚した時点で、実際の業務において問題が発生しているわけではなく、むしろ「仕事はよくやっている」と評価されています。つまり、王社員の学歴詐称は会社に直接的な損害をもたらしているわけではないということです。この場合、学歴の詐称が発覚してもY社は王社員を解雇できないという結論になります。

 ただ、会社の種類や専門的な職種などによっては、従業員の経歴は会社の信頼に大きくかかわったり、実質的な損害をもたらすこともあるでしょう。そのため、未然に問題を防ぐためにも労働契約を結ぶ際には学歴証明書、卒業証明書など経歴の証明となるような書類の提出を求めるといいでしょう。
 

ポイント 労働契約を結ぶ際、被雇用者が学歴、経歴などを詐称していても会社に実質的な損害が出ない限り解雇はできない。労働契約を結ぶ前に書面にて確認するのがよい。


ワイズコンサルティング 嵐 来未

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