事件簿29 出産休暇者の賞与の取り扱い


コラム 人事労務 作成日:2010年10月19日

労務コンサルタントの事件簿 労務問題Q&A

事件簿29 出産休暇者の賞与の取り扱い

記事番号:T00025974

 
●休暇も賞与も…

 在台日系企業のS社は主に化学材料を取り扱う貿易卸売企業。総経理の川口氏は もとはやり手の営業マンで、来台して4年がたつ。そろそろ任期も終了するころ合いで、日本本社へ戻るまでには何か実績を残して帰りたいと考えていた。

 川口氏は総経理に就任してから、よく従業員から個人の能力をもっと評価してほしいという要望を聞いていた。S社は今年で設立10年目。設立以来、年齢・勤続年数が上がれば賃金も上がるという年功序列の賃金体系を取ってきた。しかし、頑張っても報われないとの従業員からの不満や、川口氏自身が営業時代は成果を求められる立場にあり、自身の経験からも組織への貢献度が評価されるべきだと考え、半年ほど前に成果主義の賃金制度を導入したところだった。先月支給した賞与も新制度に基づき、個人の成果が反映されていると従業員からも上々の評判だった。そのことに満足していた川口氏だったが、やはり事件は起こってしまった。

許小姐:川口総経理!!

 許小姐は入社2年目、2カ月前に出産を終え、先月職場に復帰してきたところだ。

川口総経理:許さん!?大声を上げてどうしたの?

許小姐:川口総経理!今回の賞与のことですが、私は不当に扱われていると思います!

川口総経理:な…何を急に?

許小姐:先ほど、同じ部の同僚と今回のボーナスについて話していたら、私だけ極端に少ないことが分かりました!パフォーマンスは私の方がいいのに、おかしいと思います!

 許小姐のものすごい剣幕にたじろきながらも川口氏はこう制した。

川口総経理:「許さん…。ほら、君は出産時に休暇を取っただろ?それで、出勤の日数が他の人と比べてかなり少なくなっているよね。だから…

許小姐:出産休暇の取得は正当な権利です!このせいで、評価に影響が出るのは不当でしかないと思いますが!

川口総経理:「いや、でも、普通に考えて休みを全く取っていない人との、会社への貢献度の差は明らかだよね?

許小姐:総経理!それは不当な扱いを肯定する発言のように聞こえます!

 許小姐は怒りで興奮しており、川口氏の話には全く聞く耳を持たず、自分の考えを強く主張するばかりだった。

 S社では新制度導入により、従来の一律支給から、個人の評価を加味してボーナスの支給額を決めていた。そこには出勤率(会社への貢献度)も評価の対象に含まれていたのだった。

(川口総経理:出産休暇の取得により、今回は許さんの会社への貢献度は明らかに他の従業員より低い。私も産休により不当な扱いをしてはいけないのは知っている…。だが、成果からみても今回のボーナスの額は妥当だ。しかし、彼女があの調子じゃ、争議に持ち込こまれかねんな…)

解説

 さて、S社は許小姐に対してどのような措置を取るべきでしょうか?

 法令上では「賞与は会社に余剰利益が出た場合に支給するもの」(労働基準法第29条)と規定されており、賞与の支給基準は原則的に会社で取り決めることができます。しかし、今回S社で問題になっているのは、出産休暇の取得が賞与の支給基準に影響するのは不当ではないかということです。性別工作平等法(=男女雇用平等法)第21条によると、「出産休暇を欠勤扱いにしたり、皆勤手当・考課・その他不利な処分をしてはならない」と規定されています。産休者と通常出勤者で出勤率(会社への貢献度)は異なりますが、出産休暇は「労働者権利を行使して取得する休みである」との法的解釈から、産休を賞与の支給基準に影響させるのは「不当な処分」に当たる可能性があります。ただ、今回のケースは法律上、確実に「違法」というわけではなく、労使争議に発展した際、会社に不利な判定となる可能性もあるという、グレーゾンーン的な問題に当たります。

 経営側の視点からは、休暇取得者に対しても、通常出勤者と同じ扱いをするのは平等だとは思えないかと思いますが、リスクを避けるには、賞与の支給基準において産休取得者と通常出勤者を同様に扱うのが無難と言えます。しかし、賞与の支給基準において会社への貢献度(出勤率)を加味すべきだという場合は、内規で基準をしっかり作り、従業員の理解を得ることが、後々面倒な争議に発展するリスクを押さえることにつながると考えられます。

ワイズコンサルティング 嵐 来未

労務コンサルタントの事件簿労務問題Q&A

情報セキュリティ資格を取得しています

台湾のコンサルティングファーム初のISO27001(情報セキュリティ管理の国際資格)を取得しております。情報を扱うサービスだからこそ、お客様の大切な情報を高い情報管理手法に則りお預かりいたします。