事件簿40 健康診断結果を提出しない社員は問題?


コラム 人事労務 台湾事情 2015年2月26日

労務コンサルタントの事件簿

事件簿40 健康診断結果を提出しない社員は問題?

記事番号:T00055569

 在台日系企業A社では、福利厚生の一環として全社員を対象に年に1回定期健康診断を実施しておりました。

女性社員A「去年に比べてコレステロール値が高くてー」

女性社員B「私なんて激太りしてとても人には見せられませんよ」

 健康診断の実施を終えた社員の間では、よくこんな会話が繰り広げられるものの、ほとんどの従業員はそのまま直属の上司に健診結果を提出します。しかし今年は、女性社員のCさん1人が健診結果を提出しておらず、そのまま1カ月が経過しました。

健康診断結果はプライバシー情報?

総務部長:「Cさん。健康診断の結果を早く提出してください」

Cさん:「…はい、持ってはおりますが…どうしても提出しなきゃダメですか?」

総務部長:「そうだよ。皆提出してあとはあなただけですよ」

Cさん:「…私、会社には提出したくありません。そもそも健康情報は、私のプライバシーじゃないですか?」

総務部長:「プライバシーかも知れないけど、健康診断の結果は会社に提出すると昔から決まっているんだよ」

Cさん:「確かに会社からの命令かもしれませんが、私にだってプライバシーがあります。会社だからといって私のプライバシーを侵害してもいいんですか?」

総務部長:「当たり前じゃないか!福利厚生の一環として健康診断を受けているのだから、プライバシーの侵害って言われても困るんだよなぁ…」

 弊社が実施している在台日系企業の福利厚生調査によると、昨年は健康診断を実施している企業が8割を超える結果となりました(サンプル数208社)。なお、台湾でも2012年10月に個人情報保護法が改定されて以来、健康診断の結果について、医療機関などから会社に直接通知されなくなるケースが見受けられます。このため、会社は従業員に対して、健康診断の結果の提出を求めることになりますが、今回のケースのように「健康情報はプライバシーだから、会社に提出する義務はない」と言われた場合、どのように対応してよいのか苦慮することになります。

●解説

 まずプライバシーの定義を誤解していることが原因だと思われます。一般的には「信義誠実の原則に基づき個人情報が侵害されない権利」と考えられています。また台湾の個人情報保護法によると、個人情報の定義とは、「自然人の氏名、生年月日、統一証号、パスポート番号、特徴、指紋、婚姻、家族、教育、職業、病歴、医療、遺伝子、性生活、健康診断、犯罪記録、連絡先、財務状況、社会活動およびその他直接または間接的な方法により当該個人を識別することができる情報」を指します。

 そのため、健康状態もプライバシー権で保護されるべき個人情報でなので、慎重な取り扱いが求められることには異論はありません。

 しかし、「住民としてのプライバシー」と「労働者としてのプライバシー」は、必ずしも同一ではありません。労働契約上においては、労働者は会社との間で労働契約を締結しています。そして、労働契約の内容には、労働者が労務提供を履行できる健康を有していることが含まれているわけです。

 従って、原則として、労務提供に関連した健康状態に関し、会社が取得することは当然であると考えられます。つまり、労働者の健康状態に関するプライバシーの問題は、会社が健康に関する個人情報を取得できるかどうかということではなく、雇用者が求職者あるいは労働者にプライバシー情報を要求する際に、取得した情報をどのように管理するかという、取得後の管理の問題といえます。

 なお、労工健康保護規則においても、第12条に企業の責任として、満65歳以上の者には年1回、満40歳以上65歳未満の者は3年に1回、40歳未満の者は5年に1回、健康診断を受診させなければならないと規定されていることからすれば、会社が健康診断の結果を取得することが前提となっていることは明らかであり、健康診断の結果は、労働者に帰属するものではなく、会社帰属情報であると言えます。

 ただし、健康診断の受診および結果通知の内容としては、労工安全衛生法上、最低限行うべき法定項目に関して、その実施を求めている点には注意が必要です。つまり、法定項目以外の特別健診(例えば婦人科健診など)は、労工安全衛生法によって、会社に義務付けられているものではありませんので、当該健診結果が会社に通知されることについて、労働者が必ずしも承諾の上で、受診したとも限らないということです。従って、労工安全衛生法に定められた法定項目以外の健診を実施し、その結果を会社に通知させる場合には、原則通り、本人の同意が必要となりますので、この場合には、会社へ当該健診結果が通知されること(あるいは会社へ当該健診結果を提示すること)を条件として特別健診を受診させることになります。

 実務上は、労働者が会社に対して協力体勢を取りやすいよう、会社が従業員の健康情報を収集するのは労働安全衛生法上の義務、および安全配慮義務を全うすることが目的であること、そして、収集した健康情報は人事担当者や健康に関連する部署の者、あるいは上司などに限定し、それらの者には絶対に他言しないように情報管理を徹底しているということを、従業員に対して十分説明をしておき、円滑に健康情報を取得できるようにしておくことをお勧めいたします。 

佐々木緑

佐々木緑

コンサルタント

高校より台湾のインターナショナル校・専門学校に進学し、卒業後、2年間日本成田空港制限区域内の免税店にて就業し販売員の経験を持つ。台湾帰国後、2007年にワイズコンサルティング入社〜現在に至る。管理部・営業部に配属され、現在は労務コンサルタントとして活躍中。

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