事件簿42 台風時の「出勤停止」は命令ではない?


コラム 人事労務 台湾事情 2015年10月23日

労務コンサルタントの事件簿 労務問題Q&A

事件簿42 台風時の「出勤停止」は命令ではない?

記事番号:T00059973

 在台日系企業の総経理N氏は、駐在8年目のベテラン総経理である。台湾では台風の際に地方自治体が、管内の公共機関・学校の「出勤停止(中国語で停班停課)」を発表しており、民間企業もこれに従って休みとするケースが多い。駐在初年度は「え?台風休暇を自治体が発表するのか〜」と驚いていたものの、最近では戸惑うこともなく冷静に対応することができるようになった。

 またも大きな台風の襲来だ。今年は台風の当たり年なのか、先月から台風が3回直撃しており、いずれも台風休暇としている。明日は3連休前の最後の出勤日のため、台風休暇にすると会社としては多大な損害である。と、そこに管理部長がやって来た。

管理部長:「総経理、台風の件で少し相談があるのですが…」

N総経理:「そうだね。この分だと明日が一番荒れそうだね。それにしても、もう10月だというのに台風か」

管理部長:「ええ、そうですね〜今年は例年に比べて台風が多い年ですね。明日の台風休暇は従業員も心待ちに…あ、いえ、何でもないです!とにかく今晩8時ごろに発表があります」

N総経理:「だが、明日は連休前だし台風がひどくなかったら通常通り出勤させようと思うが、どうだね?」

管理部長:「それは私の口からはとても言えないです…皆既に台風休暇になると思っているようですし…」

N総経理:「何を言っているんだ、気が早いだろ!自治体の出勤停止措置は、一般企業はそれに倣う必要は確かなかったはずだ」

管理部長:「はぁ…もしひどくなければ出勤も仕方ありませんね。ただ、台風休暇時の出勤は2倍の給与を支給する必要があったかと思います」

N総経理:「それは本当か?人件費が上がってしまうのは困るな。では次の土曜日に振替出勤をさせよう!」

管理部長:「総経理、それも違法ですよ!」

N総経理:「……。(困ったな〜何が合法で何が違法なのか分からなくなってしまったな)」

●解説

 台湾において、台風など災害発生時に自治体が公共機関と学校を休みとする「停班停課」の措置を取った場合、一般の企業もこれに従って休みにする義務はありません。ただ、日系企業や大手企業では、従業員の安全など災害発生時のリスクを考え、措置を目安に休みとする企業が多くあります。

 台風で出勤停止とされた日に、会社が業務上の必要性から従業員を出勤させた場合、賃金を通常通り付与するだけでなく、いくらか上乗せすることを労働局は勧めています。上乗せ金額は労使協議で決定するか、事前に決めておくこともできます。

 ただし、現行の法令では、台風(自然災害)時に出勤した従業員に対して賃金を上乗せしなかったり、出勤しなかった従業員の賃金を無給としても違法にはなりません。

 いずれにしても、法令規定にない事項については事前に会社で取り決め、就業規則や会社の内規で示しておくことが賢明でしょう。
以下は台風休暇時の違法と見なされる事例を挙げましたので、ご参照ください。

<台風休暇時の違法事項の事例>
1.皆勤手当・賞与の不支給
2.解雇
3.人事考課への不利益
4.後日振替出勤の強要

◎参考:労働局公布の「自然災害発生時の従業員の出勤管理および賃金支給の要領」の規定では、雇用主は台風休暇となった従業員の出勤記録上に「台風のため停班(出勤停止)」と記すべきとしている。また、▽台風休暇を私用休暇や他の休暇と相殺したり、後日振替出勤を強要したり、皆勤手当の不支給、解雇、その他従業員に不利な処分を行ってはならない▽従業員の安全を考慮して、雇用主は出勤している従業員に対して出勤の継続を強要してはならない▽業務上の必要性から従業員に出勤を強いる場合、労働災害の発生を避けるために、適切な安全防護措置を取る必要がある──とも規定している。

 なお、例えば台風の影響により、事務所が水浸しとなり、掃除のために残業させるなど、やむを得ず従業員を出勤させる場合や残業をさせる場合は、労働基準法第24条第3項と第32条第3項により、通常の1時間当たりの賃金の倍額のほか、延長した労働時間について、雇用主は事後、労働者に適当な休息を与えることで補わなければなりません。

 詳細は以下の表をご参照下さい。

 また、「延長した労働時間について、雇用主は事後、労働者に適当な休息を与えることで補わなければならない」の「適当な休暇」については、法律上特別な規定はないため労使間で取り決めることができます。

 ただし内政部の解釈令によると、「労働者が仕事を終了後、次の仕事をなす前に、少なくとも12時間の休みを与えなければなりません」との解釈があるため、推奨レベルですが、12時間以上の休みを与えることが良いとされています。

 台湾における台風発生時は、労働局が公布している「天然災害発生事業単位労工出勤管理および工資給付要点」を参考に、法律に抵触するリスクを把握しておきましょう。

◎労働基準法第24条(延長労働時間の賃金計算方法)

 雇用主が労働者の労働時間を延長した場合、その延長労働時間の賃金は、以下の基準に基づき支給しなければならない。

1.延長労働時間が2時間以内である場合、通常の1時間当たりの賃金の3分の1以上を加算する。

2.再延長労働時間が2時間以内である場合、通常の1時間当たりの賃金の3分の2以上を加算する。

3.第32条第3項の規定に基づき労働時間を延長した場合、通常の1時間当たりの賃金の倍額を支給する。

◎労働基準法第32条(臨時・緊急時の労働時間変更)

 雇用主が労働者に通常労働時間外に労働させる必要がある場合、雇用主は労働組合の同意を得た後、または事業者組織内に労働組合がない場合は労使会議の同意を得た後、労働時間を延長することができる。

 前項の雇用主が延長する労働者の労働時間は、通常労働時間と合わせて1日当たり12時間を超えてはならない。延長する労働時間は、1カ月に46時間を超えてはならない。

 天災事変または突発事件により雇用主が労働者に通常労働時間外に労働させる必要がある場合、労働時間を延長することができる。ただし、延長開始後24時間以内に労働組合に通知しなければならない。労働組合がない場合、所轄の主管機関に届け出なければならない。延長した労働時間について、雇用主は事後、労働者に適当な休息を与えることで補わなければならない。

 坑内労働の労働者については、その労働時間を延長してはならない。ただし、監視を主な業務とし、または前項に定められる事由がある場合においてはこの限りでない。

◎労働基準法第40条(緊急時の休日取消とその労働条件)

 天災事変または突発事件により雇用主が継続して労働させる必要があると判断した場合、第36条から第38条に定められる労働者の休日または休暇を取り消すことができる。ただし、取消期間の賃金については、通常の労働日の倍額の賃金を支給しなければならず、かつ事後に休息のため代休を与えなければならない。

 前項における労働者の休日または休暇を取り消した場合については、事後24時間以内に理由を詳しく陳述し、所轄の主管機関に届け出なければならない。 

佐々木緑

佐々木緑

コンサルタント

高校より台湾のインターナショナル校・専門学校に進学し、卒業後、2年間日本成田空港制限区域内の免税店にて就業し販売員の経験を持つ。台湾帰国後、2007年にワイズコンサルティング入社〜現在に至る。管理部・営業部に配属され、現在は労務コンサルタントとして活躍中。

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