記事番号:T00063217
日系企業のJ商事に勤務するB営業部長は、10年以上勤務しているベテラン社員で、営業業績は悪くないが、上位職者に対する発言でしばしば問題を起こし、会社も頭を悩ませていた。
J商事は昨年、増収増益で過去最高の数字をたたき出し、社員にもボーナスを例年より多く支給して還元した。しかし、年末より不況のあおりを受けて、新規受注どころか、既存顧客からの受注も激減し、今年上半期の業績は大きく目標を下回りそうだ。
総経理は各部門長に対して、経費・交際費の削減方針を通達し、万が一赤字になった場合は、管理職の給与を一時的に5%減額することもあると話した。プレッシャーもあり、社内の雰囲気は明らかにピリピリしていた。ある社内定例会議において、総経理がB部長の所属する営業2部の成績を指摘したところ、「お前の考えについていける社員なんていない。もう我慢できない!お前なんか社長を退任して、とっとと日本へ帰れ!」などの暴言を吐き、会議が一時中断される事態となってしまった。
会社は、B部長の発言は部下を監督・指導する者として極めて不適格であり、社内秩序を乱したとして、就業規則の懲戒規定により、降格処分を科すことを決定し、課長職へ降格することにした。そして、この降格に伴い、役職手当が減額されるため、そのことをB部長に告げた。
総経理:「今まで、あなたの発言には始末書を提出させて注意を促してきたが、改善されることはなかった。それどころか、今回の騒動により、さらに社内秩序を乱した。よって、当社就業規則の懲戒規定にのっとって降格処分を科す。これにより来月から課長職に降格する。また、当社の給与規程では、課長職の役職手当は1万台湾元と定められているため、役職手当を2万元から1万元に減額する」
B部長:「ちょっと待ってください。いきなり役職手当を1万元も減給されるのは納得いきません。そもそも台湾の法律では減給は違法だと思います」
総経理:「当社では、役職に応じて役職手当の金額が決められているため、役職の引き下げに伴い減給されるのは当然である。合理的な減給であるから違法ではない」
B部長:「そんなはずはありません!!!この減給は明らかに違法です。絶対に受け入れられません!」
●降格により引き下げられた賃金の考え方
事例のケースは、減給処分ではなく、降格処分により役職が引き下げられ、引き下げられた役職に応じて、結果的に役職手当の金額が変更されたことになります。このため、違法ではありません。(参考解釈令:労委会1999年6月28日台88労働一字第023854号)
役職ごとの賃金の基準を明確に定める!
ここで注意したいのは、役職ごとの賃金の基準があらかじめ会社の賃金規程などによって明確に定められていることです。
役職ごとの賃金基準が定められていない場合、役職に応じて手当額が変更される約束になっていないため、役職の引き下げに伴い、当然に賃金を減額できることにはなりません。
会社の裁量で一方的に減額した場合は、減給の制裁に該当する可能性がありますので、労働争議に発展しやすいです。
その他にも、就業規則の懲戒規定に、降格の区分および懲戒該当事由が定められていることも必要です。
また、合理性や相当性を欠く懲戒処分は権利の乱用と判断されてしまいますので、懲戒処分の決定は慎重に行う必要があります。
◎解釈令:労委会1999年6月28日台88労働一字第023854号
「労働基準法の第70条によると、『表彰と懲罰』については就業規則で明確に定めなければならない。また同法の施行細則第7条によると、『表彰と懲罰に関する事項』は法律に基づき労働契約で約束するものとする。
すなわち、表彰と懲罰に関する事項は労使双方が約束する労働条件でもあり、雇用主が管理権を行使するために必要なものでもある。雇用主が職場の規律を維持するため、合理的かつ正当な理由により就業規則の中で『降級』の罰則を定めた上で、それに基づいて賃金や業務奨励金を減給調整することは理解できるが、故意に減給に踏み込む場合は公平の原則に合わない懸念がある。(後略)」
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