第9回 吉野彰氏、ノーベル化学賞受賞


コラム その他 2019年10月17日

博士の雑学サイエンス

第9回 吉野彰氏、ノーベル化学賞受賞

記事番号:T00086363

 2019年のノーベル化学賞が、「リチウムイオン電池の父」と呼ばれる吉野彰・旭化成名誉フェロー(71)ら3人に授与されることになりました!

/date/2019/10/17/20yoshino_2.jpg吉野氏は、日本人として27人目のノーベル賞受賞者となった(旭化成リリースより)

 吉野氏は1948年大阪生まれ。66年に京都大学工学部石油学科に入学し、72年に工学研究科修士課程を修了しました。81年にアジアで初めてノーベル化学賞を受賞した福井謙一・京大名誉教授の孫弟子に当たります。

 旭化成に入社し、いくつかの研究テーマの後にイオン二次電池の開発に従事し、現在皆さんが使っているリチウム二次電池を開発。05年には論文「リチウムイオン二次電池と高出力蓄電デバイスに関する研究」で、大阪大学で博士(工学)の学位を取得しました。

環境問題解決の糸口に

 どんな電池も負極(アノード)であるマイナスの電極から出てきた電子が電解質(多くは液体)を流れ、プラスの電極である正極(カソード)に達し、回路ができて電気が流れる仕組みになっています。電池には、放電して終わりの一次電池(マンガン電池など)と、充電して繰り返し使える二次電池があります。

 今回受賞のリチウム電池はもちろん、充電可能な二次電池です。しかも、ニッケル・カドミウム蓄電池やニッケル水素電池と違い、継ぎ足し充電可能な繰り返し特性に優れた二次電池です。95年の「Windows95」の発売でパソコンが一家に一台置かれるようになり、爆発的に普及しました。

 化学に関係する者はここ数年、吉野氏がノーベル賞を受賞するのではと期待を寄せており、今年とうとう受賞に至りました。受賞理由としてスウェーデン王立アカデミーが「われわれの生活に革命を起こした。化石燃料が不要な社会の基礎を築き、人類に大きな利益をもたらした」ことを挙げたように、地球環境問題を解決し、新しい未来社会を切り開く可能性を示した意義が大きかったように思われます。

炭素素材の活用

 共同受賞者との関係も踏まえて、受賞理由を眺めてみましょう。

 70年代に当時エクソンに勤務していた共同受賞者の一人、マイケル・スタンリー・ウィッティンガム氏(77)が、非常に軽くて反応性の高い金属であるリチウムを負極材に使う手法を発見しました。これは素晴らしい発見で、リチウムは電子を放出しやすいだけでなく、電子をチャージすることができました。

 ただ、この電池は破裂しやすい欠点を抱えていました。この欠点の解消につながったのがもう一人の受賞者、オックスフォード大学にいたジョン・グッドイナフ氏(97、最高齢ノーベル賞受賞者)の発見でした。グッドイナフ氏は80年、研究チームと共にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を正極材に使うことで、従来より安定した電池を作れることを発見しました。当時このチームには、東芝エグゼクティブフェローの水島公一氏もいました。

 吉野氏は83年、リチウムイオン二次電池の原型を開発しました。負極には81年に白川英樹氏(00年ノーベル化学賞受賞)が発見した導電性高分子であるポリアセチレン、正極にはグッドイナフ氏の発見したコバルト酸リチウムなどを使用しました。

 その後改良を加え、負極材を炭素材料に換えた、リチウムイオン二次電池の基本概念を85年に確立しました。正極のコバルト酸リチウムにより、既にリチウムを含有するため、負極には発火性のある金属リチウムを使用するのをやめました。さらに、炭素材料はリチウムを吸蔵するため、電池中に金属リチウムが存在しなくなり、安全性が向上しました。また炭素材料は、リチウムの吸蔵量が多く、4V級の高電位を持つ大容量が得られました。

基幹部材が稼ぎ頭に

 リチウムイオン電池は世界で年間10億個以上が製造販売され、市場シェア1位がパナソニック、2位がサムスンSDIです。

 旭化成もかつては東芝と共同で電池を製造販売していましたが、現在は特許を権利化し、もっぱらライセンスビジネスと、基幹部材の機能性セパレーターなどの製造販売でもうけています。ちなみにこのセパレーターの品質が悪いと、リチウムイオンが析出(せきしゅつ)し、発火の原因になります。飛行機に乗る時、バッテリーをチェックされるのはこのためです。

 日本人の受賞はうれしいことですが、全ては30年ほど前の研究成果によるものです。今後のことを考えると、日本は国を挙げてもっと科学技術の発展に力を入れなければ、中国などの追い上げで技術立国は危ういのが現状です。

松田立人

松田立人

化学業界ビジネスコンサルタント

京都大学卒 工学博士 一部上場の化学会社において日本と台湾の経営トップとして化学業界を熟知。研究開発、事業企画から国内外営業、人事労務に至る幅広い経験を持ちます。更に国内外に多くのビジネス人脈を有します。ワイズコンサルティング副董事長

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