リーガル

記事番号:T00041468
2013年1月7日15:56

 事案

 日本企業A社は、中国の北京市で100%出資の独資企業B社を設立することにしました。そして、B社への出資金の払い込みに先立ち、B社の事務所テナント賃料や取引先への手付金の一部の支払いが必要になったため、A社がとりあえずB社に代わり立て替え払いをしました。しかし、B社の設立後に、A社が当該立替金をB社から回収しようとしたところ、B社からA社への海外送金が認められませんでした。

アドバイス

 中国で会社を設立する前にテナント賃料等の支払いが必要な場合、専用口座を設立し、必要な外貨を同口座に送金した上で使用すれば、将来における立て替え金の送金トラブルを回避できます。

解説

1)親会社による立て替え払いと送金リスク

 中国で会社を設立する場合、その設立に先立って事務所テナント賃料の一部や設立に伴う各種費用の支払いが必要な場合があります。そして、事例のように日本の親会社が全額を出資するような場合、会社の設立後に返済してもらえばよいと考え、親会社が立て替え払いをするケースもありますが、これにはリスクがあります。

厳しい海外送金規制

 中国では、中国国外への外貨送金について厳格な管理を実施しています。具体的には、中国から日本へ送金する場合、所定の送金名目に沿って、送金金額に応じて外貨管理部門あるいは外貨取扱銀行の審査または確認を経て送金しなければなりません。そして、親会社による立て替え払い金に関する子会社から親会社への海外送金については、現在の中国の法律上、一部のごく限られた多国籍企業(注1)以外には認められていません。上海市では、例えば1件当たり10万米ドル以下のサービス貿易に関する立て替え払いにつき直接銀行で対外支払い手続きを行うことができるなどの内容を定めた通知(注2)が出されたものの、それ以外の地域では同様の規定は見当たりません。

 したがって、事例のように、北京市において、日本の親会社が設立予定の子会社のためにテナント賃料などの立て替え払いを行い、その後、子会社が親会社に立て替え金の返済目的で海外送金をすることは、基本的に認められません。

 その結果、親会社は、子会社からの返済をあきらめざるを得ませんが、このような処理は、経理および税務上のリスク(寄付金や移転価格など)になりかねません。なお、親会社が中国国内に人民元口座を開設し、同口座へ人民元で返済を受けることも考えられます。しかし、このような外国企業の人民元口座への送金については海外送金の場合と同様の審査が行われるため、同口座の利用も難しいのが実情です。

2)設立前の事前費用に関する口座開設

 法律上、親会社が立て替え払いした各種費用の海外送金が容易に認められない一方で、実際には、中国で会社を設立する前にさまざまな費用の支払いが必要な場面があります。これを解決するため、会社設立前における専用口座の開設が認められています。

 具体的には、2003年3月3日に公布・施行された「外商投資外貨管理業務の改善の関連問題に関する国家外貨管理局の通知」(匯発[2003]第30号)では、外国投資者が外商投資企業の設立前の段階で、会社設立に関連する活動を行う場合、投資プロジェクト所在地の外貨管理部門の審査許可を経て、外国投資者の名義で外国投資者専用外貨口座を開設することが認められました。そして、その用途に応じて1)投資類口座(e.g.請負プロジェクトの受注等)2)買収類口座(e.g.土地使用権や不動産の購入等)3)費用類口座(e.g.市場調査や会社設立準備の各種費用)4)保証類口座(e.g.会社のための保証金支出)──という4種類の口座開設が認められました。また、この外国投資者専用外貨口座に送金された外貨資金については、既に使用された分については当該外国投資者の払い込み済みの資本金と見なされ、また口座内の残額についても改めて資本金として充当することができます。

前期費用口座でトラブル予防

 さらに、12年12月17日には「国家外貨管理局の直接投資外貨管理のさらなる改善調整政策に関する通知」が施行され、外国投資者専用外貨口座に関する各手続が緩和されています。例えば、従来の4種類の口座については「前期費用口座」という1つの口座に統一されました。加えて、従来は口座の開設に当たって外貨管理部門の審査許可が必要でした。しかし、今後は口座の開設並びにその後の人民元への両替手続きについて、外貨管理部門の審査許可を経ず、銀行が、外貨管理部門にある各企業の登記情報に基づき手続きを行うことになりました。また前期費用口座については、企業設立審査の前に行われる企業名称登記が終了すれば開設することができます。

 このように、会社の設立に伴い事前費用が必要な場合、前期費用口座を開設して同口座を通じて必要な費用を支出すれば、事例のようなトラブルを予防することができます。そのため、同口座の開設は、中国での会社設立に当たり検討すべきポイントの一つです。

(注1)立て替え払いが認められる「多国籍企業」とは、中国国内外に同時に関連会社を有し、かつ中国国内の関連会社1社がその全世界または地域(中国を含む)における投資管理機能を有する企業グループを指します(「多国籍企業の貿易外外貨転・外貨支払の管理の関連問題についての通知」(匯発[2004]第62号))。

(注2)「上海市国内機構のサービス貿易にかかわる立て替え払い、分担費用の対外支払いに関する問題についての通知」(国家外貨管理局上海市分局、上海匯発[2010]第192号)

コラム執筆者 
安江義成弁護士
竹田昌史弁護士
呉強中国弁護士

黒田法律事務所・黒田特許事務所 
1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
http://www.kuroda-law.gr.jp/ja/tw/

日本・台湾・中国の法律はお任せ!
「ワイズリーガル会員」
http://www.ys-consulting.com.tw/legal/join.html

<お問い合わせ>
ワイズコンサルティング 
TEL:02-2528-9711
Email: member@ys-consulting.com