リーガル

記事番号:T00041979
2013年2月4日15:46

一.はじめに

 昨年大きく取り上げられた元重慶市党委員会書記の薄煕来氏の事件をはじめ、中国の政府高官の収賄事件は、日本でも頻繁に報道されています。このため、従業員を中国に駐在または出張させる日本企業は、それらの者が公務員などに賄賂(わいろ)を贈らないように指導・教育を行っているものと考えられます。しかし、「商業賄賂」については日本に制度が存在しないため、見落とされがちです。そこで、今回はこの「商業賄賂」をご紹介したいと思います。

二.商業賄賂に対する規制

 商業賄賂とは、非公務員に対する賄賂の総称です。商業賄賂は、反不正当競争法、中国の刑法およびそれらの関連法規によって規制されています。

(1)反不正当競争法による規制

 反不正当競争法8条1項は、「事業者は、財産またはその他の手段で賄賂行為を行うことにより商品を販売または購入してはならない」と規定しており、違反した場合、刑事犯罪を構成すれば刑事責任が追及され、刑事犯罪を構成しなければ情状に基づき1万人民元以上20万人民元以下の過料に処すことができ、違法所得があるときはこれを没収するとされています(同法22条)。

リベート・値引きに関する規定

 反不正当競争法に関して特筆すべきことは、リベートおよび値引きに関する規定が定められていることです。すなわち、同法および同法の関連法規である「商業賄賂行為の禁止に関する暫定規定」(以下、「商業賄賂行為禁止規定」といいます)は、リベート(注1)の付与および収受は、贈賄および収賄に該当するとし(同法8条1項、同規定5条1項)、一方で、値引き(注2)は、値引きを行う方も、受ける方も、事実どおりに記帳することを前提にそれを許しています(同法第8条第2項、同規定6条1項)。

 許されないリベートと許される値引きの大きな違いは、帳簿に記帳するか否かの点にありますので、公明正大な取引が求められていると言うことができます。

(2)刑法による規制

 中国の刑法では、公務員に関連する贈収賄とは別に、非公務員への贈賄(同法164条)および非公務員による収賄(同法163条)のいずれも規制されています。

 非公務員にも贈収賄の規制があるというのは、日本人にはなじみにくいと考えます。それでは、日常的なあらゆる贈答などが処罰されてしまうのでしょうか。

主観的な要件

 この点について刑法では、贈賄については「不正な利益を取得するため」という要件を、収賄については「他人のために利益を図る」という主観的な要件を課しており、当該要件を満たさなければ処罰されません。

 また、「商業賄賂刑事事件の処理における法律適用の若干の問題に関する意見」10条では、処罰される賄賂と処罰されない贈答の区別は、以下の要素を考慮して全面的に分析し、総合的に判断するとしています。
①財物の受け渡しが発生した背景。例えば、双方に親族・交友関係が存在するか否か、並びに過去の交流の状況およびその程度
②受け渡しがなされた財物の価値
③財物の受け渡しの原因、時期および方式、財物提供者から受領者に対し職務上の請託があったか否か
④受領者が職務上の便宜を利用して提供者のために利益を図ったか否か

 この中で、特に「②」の受け渡しがなされた財物の価値は、犯罪を構成するかどうかの重要な判断基準となります。

三.商業賄賂の対応策

 中国の現地法人で商業賄賂事案が発生した場合、行為者だけではなく、同法人が処罰される可能性がありますし、親会社のレピュテーションにも影響を与えかねません。このため、商業賄賂の対応策を考えておく必要があります。

(1)予防段階の対応策

①社内規則の整備およびその周知

 商業賄賂に関する社内規則では、前記二(1)のリベートと値引きの違いを踏まえ、商品代金の返還や値引きを行う際には必ず帳簿に記載することや、贈答に関する明確な基準、基準に反した場合の罰則などを定める必要があります。

 また、従業員が当該社内規則を知らなければ意味がありませんので、その周知が必要です。

②内部通報制度

 内部通報制度は、商業賄賂事案の発生の事実や発生した商業賄賂の詳細に関する情報が得られるだけでなく、制度を設けること自体が、各従業員に対する抑止力を果たすと考えられます。

(2)発生後の対応策

③内部通報制度の活用

 内部通報制度を活用し、商業賄賂事案の発生の事実や発生した商業賄賂の詳細に関する情報が得られるようにします。

 なお、その際に重要なのは、通報者が通報によって不利益を被ることを恐れないようにすることです。そのためには、例えば、弁護士などの社外の専門職を通報の窓口にするなどして、通報者の情報が漏えいされないようにする必要があります。

行為者への厳罰を

④行為者への厳罰

 商業賄賂事案が発生したにもかかわらず、行為者への処罰がなされなければ、会社は商業賄賂を黙認する立場を取っていると従業員に受け止められかねず、商業賄賂を助長してしまうことにもなりかねません。

 このため、商業賄賂事案が発生した場合には、社内規則に従って、行為者への厳罰を行う必要があると考えます(従業員が会社における身分を利用して、私利私欲のためにリベートを収受しているような場合には、刑事告発を行うことも検討すべきです)。

(注1)リベートとは、「事業者が商品を販売する場合に、帳簿に記帳することなく、密かに現金、現物により、またはその他の手法により相手方組織または個人に一定の比率により商品代金を返還することを指す」とされています(商業賄賂行為禁止規定5条2項)。
(注2)値引きとは、「商品の仕入、販売における利益の還元のことであり、事業者が商品を販売する場合に明示的かつ事実どおりに記帳する方式により相手側に価格の上で優遇を与えることを指す」とされています(商業賄賂行為禁止規定6条2項)。

コラム執筆者
安江義成弁護士
鈴木龍司弁護士
呉強中国弁護士  

黒田法律事務所・黒田特許事務所 
1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
http://www.kuroda-law.gr.jp/ja/tw/

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