リーガル

記事番号:T00042487
2013年3月11日15:34

 一. 事案

 中国の深圳市所在のB社は、日本企業A社が2007年に100%出資して設立した独資貿易企業であり、主にかばんの輸入販売を行ってきました。B社は仕入部、販売部、総務部を設けており、設立当時には、各部門の従業員と労働契約を締結し直接雇用しましたが、08年に総務部の受付を担当する従業員が出産休暇に入ったことで、その代わりにある労務派遣業者より受付担当の労働者を1人派遣してもらいました。その後、総務部の業務量が増えたこと、および当該派遣労働者の人件費が安いこと(派遣労働者には各種手当を支給しないため)を理由に、B社は総務部の従業員が復帰した後も、当該派遣労働者に引き続き派遣形式のまま仕事をしてもらっています。また、09年以降に入社してきた仕入部、販売部、総務部の従業員とは直接労働契約を締結せず、すべて派遣業者による労務派遣の形式を採ることで、B社は直接雇用より低い人件費で人材を確保することができました。B社はさらに最近、もともと直接雇用していた従業員を派遣形式に切り替えようと、派遣業者に打診を行っていました。

 労務派遣に関する労働契約法の条項が改正されたと聞きましたが、B社としては今までの派遣という雇用形態について調整を行う必要がありますでしょうか。


二. アドバイス

(1)結論

 B社は、13年7月1日以降、原則として仕入部、販売部で働く労働者と直接労働契約を締結する必要があります。ただし、13年7月1日以降にもそれ以前の労務派遣協議書に基づく派遣期間が残されている派遣労働者に関しては、その期間満了まで派遣を継続することも可能です。一方、総務部の受付や保安を担当する派遣労働者については労務派遣協議を延長することができる可能性があります。ただし、派遣労働者と直接雇用者が同一業務を行っている場合、派遣労働者が直接雇用者と同様の報酬体系に従って同レベルの報酬を受け取っているかどうか注意が必要です。理由は以下で解説いたします。

(2)解説

1. 労務派遣の適用範囲の限定

 12年12月28日に「全国人民代表大会常務委員会の『中華人民共和国労働契約法』の改正に関する決定」(以下「労働契約法の改正」という)が公布され、今年の7月1日に施行されます。

 今回の労働契約法の改正の目的は、労務派遣に関する規制の強化であると考えます。

 改正前の第66条では、労務派遣が①臨時的②補助的または③代替的な勤務部署で実施する旨を規定していましたが、抽象的な文言による原則的な規定にすぎなかったため、実務において徹底されていませんでした。

 改正後の第66条では、労働契約が基本形態であり労務派遣が補充形態である旨を第1項に明記しました。そして第2項では、上記①の「臨時的」については該当部署の存続期間が6カ月を超えないこと、②の「補助的」については主要業務のためにサービスを提供する非主要業務であること、③の「代替的」については正規の従業員が一時的な休職等で一定期間業務を行えない場合に、他の労働者が代わりに行う業務であることが明記されました。さらに第3項では、企業に対して派遣労働者の人数を厳しく制限するよう要求し、会社の全労働者に占める派遣労働者の割合が、労働行政部門が定める一定の比率を超えてはならないと定めました。

3条件を満たすか

 以上から、仕入と販売部門は6カ月を超えて存続しており、①「臨時的」とはいえず、まさにB社の主要業務であることから②「補助的」ともいえず、正規の従業員が一時的な休職等で一定期間業務を行うことができない場合でもないため(③「代替的」ともいえない)、B社は労働契約法の改正が施行される今年の7月1日以降、労働者を直接雇用した上で、仕入、販売業務に従事させる必要があります。

 ただし、総務部の受付や保安を担当する派遣労働者であれば、②「補助的」に該当するため引き続き派遣の形を採ることができる可能性があると考えます

 なお、派遣労働者の人数制限に関する労働行政部門の規定ですが、今のところ、地方レベルである広東省の労務派遣管理規定の意見募集案に30%という比率が挙げられているものの、国レベルの規定を含めてまだ正式に公布されていないためこれからの動きについて注意する必要があるといえます。

 また、労働者を直接雇用する場合、通常、労働者の各種の社会保険料、住宅積立金についてもB社が源泉徴収し、納付することとなります。しかし、直接雇用の場合においても、社会保険料と住宅積立金の納付手続のみを労務派遣業者等に委託することも可能ですので、必要に応じてこれを活用することをお勧めいたします。

2. 同一業務同一報酬原則(注1)

 労務派遣に関する同一業務同一報酬を定める労働契約法第63条において、改正前の第1項の規定に、「派遣先企業が同一業務同一報酬原則に従い、派遣労働者に対して、当該派遣先企業の同類の部署の労働者と同一の労働報酬分配方法を実施しなければならない」旨を追加し、第2項として、「労働契約および労務派遣協議で規定もしくは約定した派遣労働者への労働報酬が第1項の規定に合致しなければならない」旨が明記されました。

 また、全人代常務委員会の労働契約法の改正に関する決定の付則として、改正決定前に既に締結されている労働契約および労務派遣協議が期限満了まで継続するとしている一方で、その内容が同一業務同一報酬の原則に照らして同一の労働報酬分配方法を実施する旨の本決定の規定に合致しない場合には、本決定に基づいた調整を行わなければならないと規定されています。

期間満了まで猶予

 従って今年の7月1日以降、それ以前に労務派遣業者と締結されている労務派遣協議書については、各派遣人員の派遣期間の満了まで履行することができます。また、総務部の派遣労働者については労務派遣の適用範囲②「補助的」に該当するため労務派遣協議書を延長できる可能性があり、直接雇用者と同一業務を行っている場合と同様の報酬体系に従って報酬を受け取っているかどうかを確認し、受け取っていないときには、同一業務同一報酬原則に従って調整することをお勧めいたします。

3. 労働契約法のその他の改正

ⅰ)労務派遣業務を行うための条件が加重されました。すなわち、改正前の第57条では、労務派遣業務を行うためには登録資本金が50万人民元を下回らないことが必要でしたが、今回の改正で同金額が200万元に引き上げられました。また業務に必要な適切な経営場所および設備を有すること、法律および行政法規に合致する労務派遣管理制度を有することが必要である旨が明記され、さらに労働行政部門の審査許可を経た上で会社登記を行わなければならず、未許可のいかなる法人または個人も労務派遣業務を行ってはならない旨が明記されました。

ⅱ)今回の改正で労務派遣に関する規制強化に合わせて、各規定に違反した場合の罰則が厳格化されました。すなわち、改正後の第92条では、無許可で労務派遣業務を行った場合、違法業務の停止、違法所得の没収および違法所得の2倍以上5倍以下の過料に処せられ、仮に違法所得がない場合には5万元以下の過料に処せられるものとされました。

ⅲ)改正前の第92条では、派遣業者(派遣元企業)の労働契約法違反しか規定されていませんでしたが、今回の改正では責任主体として派遣先企業も追加され、違反した場合の過料金額も派遣従業員1人当たり5,000~1万元に引き上げられました。

(注1)同一業務同一報酬は、「同一業務同一金額報酬」と誤解されることがありますが、正しい理解は、同一業務を行う労働者と同一の労働報酬分配方法を実施しなければならないというものです。つまり、必ずしも報酬は同一金額にはなりません。

コラム執筆者
安江義成弁護士
佐田友浩樹弁護士
呉嵐嵐中国弁護士

黒田法律事務所・黒田特許事務所 
1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。 
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