リーガル

記事番号:T00043211
2013年4月22日15:32

一.はじめに

 日本企業は、その従業員を中国の現地法人に出向させ、総経理職を担当させることが多いと考えます。その際、会社によっては、現地法人との間で労働契約を締結させないことがあるようです。

 しかし、当該人員が退職する際、当該人員が現地法人との間に事実上の労働関係が存在するとして労働仲裁や裁判を提起し、現地法人に対し経済補償金の支払いを請求するとともに、労働関係が存在するにもかかわらず、書面で労働契約が締結されなかったとして、2倍の給与を支払うよう要求することがあります。

 今回は日本から現地法人に出向した総経理との労働契約が問題となった裁判例を取り上げます。
(実際の例を参考に、修正を加えてあります)

二.事案の概要

 原告は日本のB社の従業員Aであり、2010年2月にB社と労働契約を締結しました。契約期間は2年で、Aは広東省にあるB社の子会社であるC社の総経理職に任じられましたが、C社との間では書面による労働契約が締結されませんでした。

 12年5月に、C社の董事長の方針とAの意見に食い違いがあるという理由で、B社がAとの労働契約を解除するとともに、Aの総経理職を解き、C社への出勤を停止する旨の通知書をAに発送しました。同時に、C社でも董事会で全董事の決議によりAの総経理解任を決定し、Aに対してC社への出勤停止が命じられました。

労働契約の有無が争点

 原告Aは「C社への出勤停止に関して、C社に異議を述べても回答が得られなかった。私から何度もC社に対して労働契約を解除する通知、または証明を提供するように求めたが、会社はいろいろと言い訳をして通知、または証明を提供しなかった。総経理解任の決定がなされただけで、C社から労働契約を解除する通知を私に送付しない限り、労働契約を解除する手続きを一切行ったことにはならず、私とC社との間の労働関係は継続している。それにもかかわらず、C社が出勤停止を命じ、契約を継続して履行しない行為は、労働契約の違法解除に当たる」と主張し、C社に対し、経済補償金および違法に労働契約を解除したことによる賠償金合計6万5,000人民元、および書面による労働契約を締結しなかったとして在職期間の2倍給与などの支払いを求めて労働仲裁と労働訴訟を提起しました。

 原告AはC社と労働関係が存在することの証明として、就業許可証を提出しており、毎月、C社からAの個人口座に振り込まれている1万3,000元は給与であると主張していました。

 これに対し、C社はそもそもC社とAの間に労働関係が存在しないため、労働契約を書面で締結する必要はなく、かつ経済補償金や賠償金の支払いも必要ないと反論しました。

三.判決要旨

 裁判では、主に原告が主張する被告C社との労働関係の有無が問題となり、人民法院は以下のように判示しました。

 Aは、10年にB社と労働関係を確立した後、その約定に従い、C社での仕事を割り当てられた。Aも、B社との労働関係を認めている。AとC社との労働関係が存在しているか否かという問題については、Aは確かに「外国人の中国における就業管理規定」に基づき、「外国人就業許可証」の処理がなされている。

 しかし、「外国人の中国における就業管理規定」の重点は就業資格および手続処理にあり、AはC社の設立後に招聘(しょうへい)し雇用されたわけではなく、AのC社における仕事は、B社の割り当てによるものであり、実質的にB社がAの月々の給与を支払っているといえる。

 つまり、B社とC社間で締結された、AをC社に派遣することを内容とする契約に基づき、AがC社から受け取っている1万3,000元は、B社がC社に委託して支払っている手当であると認定しました。

 そのため、AとC社間には中国の労働契約法に基づく労働関係は存在せず、労働契約の違法解除に基づく経済補償金および賠償金についての請求は認められないことになりました。

四.留意点

 今回、ご紹介した裁判例では、AとC社の間にそもそも労働契約が存在しないとして、会社側に有利な判決が下されましたが、同様の状況において必ず会社側に有利な判決が下されるとは限りません。

 外国企業が、外国企業に在籍する従業員を中国の現地法人に派遣した場合(在籍出向)に、当該従業員と当該現地法人との間で中国法に基づく労働関係が存在するか否かについて明確に規定した法律が存在しておらず、解釈が分かれています。そのため労働仲裁機関や人民法院によっても見解が分かれる可能性があります。

分かれる考え方

 実際に、裁判例を見る限り、その解釈は、主に以下の二つに分かれます。

① 外国籍の人員を高級管理職として外国企業が中国の現地法人に出向させた場合、外国企業との労働関係は外国の法律に基づき形成されたもので、中国の法律の管轄事項ではないため、中国の現地法人で管理職を担任した以上は、中国の法律に基づき現地法人との間で労働関係が形成されるという考え方です。

 今回紹介した裁判例の場合も、労働仲裁段階では、この考え方を採用し、中国の労働契約法に基づく労働関係が存在すると認定し、C社が経済補償金を支払う義務があるとの裁定をしました。

② 外国企業が中国の現地法人に高級管理職として人員を出向させ、給与を基本的に外国企業が負担し、かつ当該人員と現地法人との間で労働契約が締結されていない場合、実質的な給与負担を行っていない現地法人と当該人員との間に労働関係は存在しておらず、出向関係のみが存在しているとの考え方です。

 今回紹介した裁判例はこちらの考え方をとっています。

明確な規定がないリスク

 本件のように、出向した総経理との間で現地法人が労働契約を締結していない場合、仮に、仲裁機関または人民法院が中国法に基づく事実上の労働関係の存在を認めたときには、書面による労働契約を締結しなかったとして2倍給与の支払いを命じられるリスクがあるのでご注意下さい。

 以上のように、法令や司法解釈などで明確な規定がない現段階において、「外国企業からの出向者であるから、当該出向者と現地法人との間には中国法に基づく労働関係は存在していない」という見解はいまだ通説として定着しているわけではありません。

 そのため出向した総経理との間で現地法人が労働契約を締結すべきか否かについて、慎重に考える必要があるでしょう。

 今後、法改正や司法解釈などで、どのような指針が示されるか、注意が必要と言えます。

コラム執筆者
安江義成弁護士
佐田友浩樹弁護士
呉強中国弁護士

黒田法律事務所・黒田特許事務所 
1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
http://www.kuroda-law.gr.jp/ja/tw/

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