リーガル

記事番号:T00043479
2013年5月6日15:26

 1.事案

 上海市にある日系企業X社は、総経理のAに、2012年12月末の期間満了をもって労働契約を更新しないと伝えました。

 X社とAとの間の労働契約は、月給4万人民元で、05年1月1日から1年の固定期間で、毎年更新されていました。固定期間を定めた契約となった理由は、Aが「いずれ上海市で会社を設立したいので長期間の契約は望まない」と希望したためで、直近の契約更新の際にもAは同じことを求めていました。

 しかし、Aは労働契約の更新をしないとのX社の方針に不満を持ち、以下の要求を行いました。

【Aの要求】

①Aの05年からの勤続年数(8年)に基づいて、32万元(月給4万元の8カ月分に相当)を経済補償金として支払うべきである。

②X社とAとの間の労働契約は、労働契約法施行(08年1月1日)後に連続して2回以上更新され、期間の定めのない労働契約となっている。従って、Aに解雇事由がなければ労働契約を終了できないにもかかわらず、X社は一方的に労働契約を終了したため、労働契約法第87条に基づき①と同額の32万元の賠償金も支払うべきである。

③結論として、X社は64万元を支払うべきである。

2.アドバイス

(1)結論
X社はAに対して6万4,965元を支払えば足ります。

(2)解説
ア)経済補償金の発生事由

経済補償金は、以下のいずれかの事由によって労働契約が解除または終了した場合に発生します(労働契約法第46条)。

ⅰ)使用者の責めに帰すべき事由のために労働者が契約を解除した場合

ⅱ)使用者が契約解除の申し入れを行い、かつ労働者との協議により契約解除の合意に達した場合

ⅲ)労働契約法第40条記載の事由(労働者の疾病などによる業務の従事不可能、労働者の業務不適任、労働契約締結時の前提となった客観的状況の変化)が生じ、使用者が予告の上で契約を解除した場合

ⅳ)労働契約法第41条に基づき、整理解雇を理由として、使用者が契約を解除した場合

ⅴ)固定期間を定めた労働契約が期間満了により終了した場合(使用者が労働契約に約定する条件を維持し、または引き上げて労働契約を更新したものの、労働者が更新に同意しない場合を除く)

ⅵ)使用者が破産宣告を受け、または営業許可証を取り消され、もしくは廃業・取り消しを命じられ、もしくは使用者が繰り上げ解散を決定したことによって労働契約が終了した場合

ⅶ)法律、行政法規に定めるその他の事由が発生した場合

基準額は月平均賃金の3倍が上限

イ)経済補償金額の算出

 経済補償金の算出は以下に従ってなされます。

 労働者の月平均賃金(注1)×勤続年数(注2)

 ただし、労働者の月平均賃金が、使用者の所在する直轄市、区を設置する市レベルの人民政府の公布する当該地区の前年度の従業員の月平均賃金の3倍を超える場合、基準額は、当該月平均賃金の3倍相当額となります(労働契約法第47条第2項)。Aの月平均賃金は4万元ですが、前年度(11年度)の上海市の月平均賃金の3倍は1万2,993元(月平均賃金4,331元×3)であるため、基準額は1万2,993元となります。

 また、労働契約法施行前は、固定期間の定めのある労働契約の期間満了による終了は経済補償金の発生事由とはされていませんでした(「労働法」の徹底的実施に当たっての若干の問題に関する意見第38項)ので、Aの勤続年数は労働契約法施行後の年数(5年)のみとなります。

 その結果、Aの経済補償金は以下の通りです。

 1万2,993元×5=6万4,965元

ウ)その他の問題(期間の定めのない労働契約の締結義務)

 【Aの要求】②の点について、確かに労働契約法第14条第2項第3号に基づけば、連続して固定期間を定めた労働契約を2度締結した上で、当該労働契約を更新する場合には、期間の定めのない労働契約を締結しなければなりません。

 ただし、当該条項では「労働者が固定期間労働契約の締結を申し出た場合を除き」とも定めているところ、労働契約締結時および更新時のAの発言は、これに該当すると考えることができます。

 従って、X社はAとの間で期間の定めのない労働契約を締結する義務はなく、実際上も1年の固定期間が明記された労働契約が締結されているため、X社は【Aの要求】②に従う必要はありません。

文書で意図を明確に

 なお、紛争になった場合、Aが自らの発言を翻して「そんな申し出はしなかった」と主張する可能性がありますので、労働契約またはその他の文書でAの意図を明確にしておく方がよいでしょう。

(注1)労働契約の解除または終了前12カ月間の平均賃金を指します(労働契約法第47条第3項)。
(注2)6カ月以上1年未満の勤続日は1年として計算し、6カ月に満たない勤続日は半月として計算されます(労働契約法第47条第1項)。

コラム執筆者
安江義成弁護士
鈴木龍司弁護士
金鮮花中国弁護士

黒田法律事務所・黒田特許事務所 
1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
http://www.kuroda-law.gr.jp/ja/tw/

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