リーガル

記事番号:T00045004
2013年7月29日15:36

 一.中国の社会保険制度

 中国の社会保険には、大きく分けて▽養老保険(いわゆる年金)▽医療保険▽労災保険▽失業保険▽出産保険──の5種類があります。各社会保険については、従来はそれぞれ違う法令に規定されていましたが、2011年7月1日に施行された社会保険法によって統一されました。

ア.養老保険

 養老保険には、労働者が強制加入する基本養老保険と、労使の協議によって自主的に設けられる企業年金保険があります。

 基本養老保険は、労働者が累計15年以上保険料を納付して定年退職した場合、毎月一定の年金が支給される制度です(なお、定年退職時点の累計納付期間が15年に満たない場合、不足期間分を補充納付することで受給資格を得ることもできます)。保険料については、使用者と労働者が共同で一定割合ずつ負担します。

 これに対し、基本養老保険への加入を前提として、労使の協議により設けられる企業年金保険では、保険料は使用者と労働者が共同で負担しますが、その納付割合についても労使の協議で決めることができます(企業年金試行法第5条、第11条)。

イ.医療保険

 労働者は医療保険に強制加入しなければならず、その保険料については使用者と労働者が共同で負担します。この医療保険に加入していれば、通常の診察費用、急診および救急の医療費が、これによって賄われます。ただし、病気や薬の種類によっては、費用の一部を個人で負担する場合もあります。なお、労働者が就業中に事故に遭った場合、医療保険と労災保険が重複して適用される可能性がありますが、その場合には労災保険が優先的に適用されます(社会保険法第30条第1項第1号)。

ウ.労災保険

 労働者は労災保険に強制加入しなければなりませんが、その保険料については使用者が負担しなければなりません。労災保険に加入していれば、医療費、リハビリ費用、生活介護費用等ほとんどの費用が労災保険で賄われます。

 しかし、例えば労災認定を受けた労働者の治療期間中の賃金、5級もしくは6級の障害認定(中度または比較的重度の機能障害)を受けた労働者が月々受領する傷害手当、労働契約の終了もしくは解除の際に受け取る障害就業補助一時金については、労災保険の対象ではなく、使用者が自ら負担しなければなりません(社会保険法第39条)。

 なお、現在でも使用者による社会保険の納付漏れが問題になっています。特に、労災保険料未納の時点で労災事故が発生した場合には、本来労災保険から支給されるべき費用を使用者が支払わなければなりませんので注意が必要です(社会保険法第41条)。

エ.失業保険

 失業保険については、使用者および労働者が1年以上保険料を納付していることを条件に、本人の意思によらずに就業が中断し、規定に従って失業届を提出し、かつ求職の意思がある場合、保険料の納付期間に応じて、最短1カ月、最長2年間の失業保険金が支給されるという制度です(社会保険法第45条)。

オ.出産保険

 出産保険については、使用者が保険料を負担しなければなりません。支給内容としては、出産の際の医療費や出産に伴う休職期間中の出産手当が支給されます。

二.最近の動き

 従来の社会保険制度では、労働者がある地域で保険料を支払った後に別の地域へ移動した場合、過去に支払った保険料や保険期間を累計算入できないという問題がありました。

 この点、社会保険法では、労働者が保険料の一部を負担する養老保険、医療保険および失業保険については、労働者の移動に伴って保険関係も一緒に移転し、保険料納付年数は累計計算される旨が明記されました。

 もっとも、養老保険の支給をめぐっては、いまだに以下のような問題が残っています。

①年金を受け取る際にどの地域で受給可能か
②支給額はどの地域の算定基準に従うか

1.①の問題について

 Aさんは、福建省で9年間働いた後、上海市で1年間働いて定年を迎えました。上海市で1年間保険料を納付して定年を迎えていますので、Aさんの基本養老保険の登録は上海市にあることになります。この場合、Aさんは上海市で年金を受け取れるようにも思えますが、実務上はそうではありません。現在の制度では、ⅰ)基本養老保険の登録がある地域(関係所在地)が戸籍所在地と異なる場合、関係所在地で累計10年間にわたり保険料を納付していれば、関係所在地で年金を受給できます。そして、ⅱ)仮に関係所在地での累計納付期間が10年に満たない場合、それ以前に10年間にわたり保険料を納付した地域があれば、同地域で受給手続きを行って年金を受領できます。更に、ⅰ)およびⅱ)に該当しなければ、戸籍所在地で受領手続きを行って年金を受け取ることになります。

 従って、Aさんが上海市出身であれば上海市で年金を受け取ることができます。しかし、Aさんが雲南省の昆明市の出身である場合、上海市および福建省いずれでも累計10年間にわたる保険料の納付はありません。そのため、Aさんは戸籍所在地である昆明市で年金の受給手続を行い、昆明市で年金を受給しなければなりません。

2.②の問題について

 基本養老保険のうち、自ら納付した個人負担分についてはそのまま受給することができます。しかし、使用者負担分に基づく支給額については、年金の支給地域の平均賃金水準等を考慮して決定されます。そのため、Aさんが受給する使用者負担分に基づく年金については、昆明市の平均賃金水準等を考慮して支給額が決定されてしまうのです。

 中国の大都市で働く多くの中国人が地方出身者ですので、上記のような問題は非常に深刻といえます。中国の社会保険制度も徐々に改善されているものの、広大な国土を有し、各地方政府の利害関係が対立する国ならではの課題といえます。

コラム執筆者
安江義成弁護士
竹田昌史弁護士
謝均中国弁護士

黒田法律事務所・黒田特許事務所 
1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
http://www.kuroda-law.gr.jp/ja/tw/

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