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記事番号:T00045255
2013年8月12日15:32

江蘇省高級人民法院 2011年10月19日判決
(2011)蘇商終字第0107号

一.はじめに

 会社は独立した法人格を有し、自ら権利義務の主体となることができ(法人格の独立性)、株主はその出資した限度で責任を負う(株主の有限責任)という原則は、日本であっても中国であっても変わりません。しかし、一定の場合にはこれらの原則を形式的に貫くことが正義公平に反する場合があり、そのような場合に会社とその背後にある株主とを同一視する法理があります(法人格否認の法理)。

 同法理は、日本では判例上認められてきましたが、中国では06年に改正施行された会社法において、明文化されました。

 以下では、同法理に関する中国の裁判例を紹介します。同判例は、13年1月31日に最高人民法院の指導判例(注1)15号として公表されているため、実務上重要な意義があると考えられています。

二.事案の概要

 原告(被上訴人)X社は、被告甲社に対して約1,000万人民元の売掛金があるが、甲社は支払期限を過ぎても支払わず、倒産状態に陥っていた。X社は、被告(上訴人)乙社および丙社と甲社(以下甲、乙、丙を合わせて「3社」という)は法人格が混同しており、また、3社の実質的支配者である被告A他数名(自然人)の個人資産と3社の資産が混同していることを理由に、乙社、丙社およびA等が当該債務を連帯して弁済すべきとして訴訟を提起した。

 3社は、いずれも工作機械関連の業務を経営範囲としており、乙社および丙社の株主はA他1名であり、甲社はAの妻がその90%の株式を有していた(10%は個人が保有し、A、乙社および丙社と直接の資本関係はない)。3社は、いずれもAが社長を務めるなど管理職等に多くの兼任があり、共通の業務マニュアル等を用い、決算口座も共用するなど混同されている状況が多くあった。

 一審の中級人民法院は、A等に対する請求は棄却したものの、乙社および丙社の上記債務に対する連帯弁済責任を認めたため、乙社および丙社が不服として高級人民法院に上訴した。

三.判決要旨

1.主文
 上訴を棄却し、原判決を維持する。

2.争点
乙社および丙社が甲社と法人格の混同があり、甲社の債務を連帯して弁済しなければならないか。

3.法人格混同の有無
3社の間では、その人員・業務・財務等の要素において高度の混同が生じており、それぞれの財産を区別することができず、独立の法人格を喪失し、法人格の混同を生じている。

ア.人員の混同
 3社の社長、財務責任者、出納会計係、工商手続取扱者はそれぞれ同じ者が兼任しており、その他の管理職についても重複が見られる。また、甲社の人事任免は乙社が決定している。

イ.業務の混同
 3社の経営はいずれも工作機械業務に関連し、販売マニュアル、販売契約様式を共用している。また、対外的な宣伝の情報にも混同が見られる。

ウ.財務の混同
 3社は共通の口座を使用しており、いずれもAの署名により支出を行い、資金管理を分別していない。3社とX社との間の債権債務、業績、財務および割戻し等はいずれも甲社名義で処理されている。

4.連帯弁済義務の有無
 会社法第3条1項は「会社は企業法人であり、独立した法人財産を持ち、法人財産権を有する。会社はその全ての財産をもって会社の債務に対して責任を負う」と規定している。会社の独立した財産は会社が独立して責任を負うための物質的な保証であり、会社の独立した法人格も財産的な独立において特に現れる。関連会社(注2)の財産が区別できず、独立の法人格を喪失した場合、独立して責任を負う基礎が失われる。会社法第20条第3項は、「会社の株主が会社法人の独立的地位および株主の有限責任を濫用して、債務を逃れ、会社の債権者の利益を著しく損なった場合は、会社の債務に対して連帯して責任を負わなければならない」と規定する。

実質的に別会社か?

 本件において、3社はそれぞれ独立した企業法人として工商登記部門で登記しているものの、実際上は相互間の境界線は曖昧で法人格が混同している。3社のうち甲社は関連会社の全ての債務を負担しているが弁済能力がなく、その他の関連会社は巨額の債務から逃れ、債権者の利益を著しく損なっている。上述の行為は法人制度の設立趣旨に違反し、信義誠実の原則に違反しており、その行為の本質と危害の結果は会社法第20条3項が規定する状況に相当し、故に会社法第20条3項の規定を参照し、乙社、丙社は、甲社の債務について連帯して弁済する責任を負わなければならない。

四.留意点

 本来、法人格否認の法理は、会社とその株主を同一視する法理として考えられ、会社法第20条3項もその主体を「株主」と明記しています。

 しかし、本判例では、甲社の「株主」ではなく、甲社の「関連会社」である乙社および丙社を甲社と同一視しています。そのため、本判例は、会社法第20条3項の適用範囲を「株主」から「関連会社」にまで拡張しているようにも読めますが、本判決が「会社法第20条3項の規定を参照」するというにとどまり、「適用」するとまでは言っていないことからしても、適用範囲の拡張とまでは言えないと考えます。

 むしろ、本判決が「信義誠実の原則(注3)」という一般法理に触れていることからすれば、会社法第20条3項を参考にしつつ、「信義誠実の原則」という一般法理の枠組みの中で「関連会社」に対しても法人格否認の効果を及ぼしていく趣旨ではないかと考えます。(注4)

 通常、一般法理の適用は自制的に行われるのが原則であり、その事実認定も厳格に行われます。実際に、本判例は、3社の人員・業務・財務等の要素を細かく検討し、「高度の混同」を認定した上で、それぞれの財産が区別できず独立の法人格が失われており、そのため甲が独立して責任を負う基礎が失われているとして、乙社および丙社の連帯責任を認めています。

 この点、日系企業においても、グループ会社の役員を兼任したり、同一のマニュアル等を使用することもまれではないと思われますが、法人格が否認されるためには、人員・業務・財務・対外広告宣伝等において、「高度の混同」が生じている必要があるものと思われ、役員兼任、同一マニュアルの使用等だけをもって法人格が否認されるようなことはないものと考えます。

 他方、中国においては、会社経営者が、別会社や、親族等を利用して会社の資産を隠蔽し債務逃れを行うといったケースが頻繁に見られます。日系企業が債権者として債務の弁済を主張する場合に、債務者である会社の法人格を否認し、その背後の「株主」、ひいては「関連会社」に対しても請求していく余地があるという意味で、本判例は肯定的に考えられます。

(注1)10年11月26日に施行された「最高人民法院の判例の指導業務に関する規定」に基づき、全国の法院の裁判・執行業務に指導的な役割を持つとして最高人民法院から公表された判例をいう

(注2)会社法第217条4号「関連関係とは、会社の支配株主、実質的支配者、董事、監事、高級管理職とその直接的または間接的に支配する企業との間の関係、および会社の利益移転をもたらす可能性のあるその他の関係を指す」

(注3)指導判例15号も関連条文として、民法通則第4条「民事活動は、自由意思、公平、等価有償、信義誠実の原則を遵守しなければならない」を挙げている

(注4)一般法理により「関連会社」に法人格否認の効果を及ぼした他の判例として(2008)民二终字第55号等がある 

コラム執筆者
安江義成弁護士
金鮮華中国弁護士
藤田大樹KLO投資顧問

黒田法律事務所・黒田特許事務所 
1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
http://www.kuroda-law.gr.jp/ja/tw/

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