リーガル

記事番号:T00046263
2013年10月7日15:32

北京市高級人民法院 2012年3月7日判決
(2011)高行終字第1739号

一.はじめに

 中国では、知名度が高い名称が、その権利者が商標として登録していない間に、他人によって抜け駆け的に商標登録されることがあります。そこで、中国の商標法は、知名度の非常に高い「馳名商標」(注1)を保護することを明確にしています。具体的には、通常の商標であれば、保護を受ける(排他的な使用をする)ためには中国での登録が必要であり、その保護範囲も登録時に指定した商品と同一または類似の範囲に限定されるのが原則ですが、これに対して馳名商標は、一定の要件(注2)を満たす場合には、中国での登録がなくとも保護を受けられ、また、中国で登録された商標については、その保護範囲が登録時に指定した商品と同一または類似の範囲以外にも拡張されます(商標法第13条)。

 このように馳名商標は通常の商標と比べ特別な保護が図られていますが、馳名の有無の認定は、当事者の請求に基づき、商標に係る案件を処理するのに認定が必要な事実として認定されるとの原則、いわゆる「案件ごとの処理、受動的な認定」の原則の下で行われます(注3)。

 今回取り上げる裁判例(以下「本件裁判例」といいます)では、上記原則の下で馳名の有無の判断が行われ、原審では否定されたものの、高級人民法院において商標が馳名であると認定されました。

二.事案の概要

1.訴訟提起に至る経緯

 Y社が「水(飲料)」等の商品を指定して商標(以下「被異議申立商標」といいます)の登録出願を行ったところ、X社が商標法第13条等を根拠に異議を申し立てました。しかしながら、行政機関(商標局および商標評審委員会)はX社の異議を認めなかったため、X社はこれを不服として原審に訴訟を提起しました(注4)。

 なお、X社は、原審への訴訟提起に先立つ商標評審委員会における再審査において、被異議申立商標と同様の構成であり、X社が中国で商標登録している「聯想」商標(以下「引用商標」といいます)が、以前に馳名商標認定されたことがある旨を証拠と共に主張していました。

2.原審の判決

 原審は、馳名の有無の認定について、X社が馳名となっている商標を、被異議申立商標の出願日よりも前に既に保有していたことを立証しなければならないとした上で、X社が提出したいずれの証拠も引用商標が被異議申立商標の出願日よりも前に既に中国の馳名商標となっていたことを証明するには足りないとしました。

 また、X社の馳名商標認定されたことがある旨の主張については、商標が馳名であるか否かは、案件ごとの処理、受動的な認定の原則に従わなければならないことに言及した上で、「馳名商標保護に係る民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(以下「馳名商標民事事件の審理に関する解釈」といいます)第7条の「関連する紛争発生の前に、人民法院又または国務院工商行政管理局部門に馳名であると認定されたことのある商標は、相手方当事者が当該商標が馳名であるという事実に異議を申し立てない場合、人民法院はこれを認定するものとする。相手方当事者が異議を申し立てた場合、原告は当該商標が馳名であるという事実について挙証責任を負う」との規定を引用しています。その上で、本件の当てはめについては、引用商標は確かに人民法院および国務院工商行政管理部門により以前に馳名商標と認定されてはいるものの、本件では引用商標が馳名であるか否かの事実につき商標評審委員会およびY社のいずれもが異議を有しているとの事実を認定し、本件では引用商標が以前に馳名商標認定されたことがあることのみをもって、馳名商標とならないとしてX社の主張を退けました。

三.判決要旨

①判決

(1)原審行政判決の取消し
(2)商標評審委員会裁定の取消し
(3)商標評審委員会はX社による異議再審査請求について改めて裁定を行う

②馳名認定の点について

 高級人民法院は、馳名の認定の判断に際して、商標法第13条および馳名商標民事事件の審理に関する解釈第7条の規定を引用の上で、本件は行政訴訟であり、人民法院は訴えの対象である具体的な行政行為(筆者注:商標評審委員会がX社の行った異議を認めなかったこと)の適法性につき審理を行うため、(筆者注:馳名商標民事事件の審理に関する解釈第7条でいうところの)係争の商標が馳名であるか否かの当事者の意思表示も、行政機関による具体的な行政行為時(筆者注:異議に対する商標評審委員会による再審査時)の意思表示を基準とすべきであるとした上で、本件では商標評審委員会およびY社はいずれも商標の再審査段階において引用商標が馳名であることにつき争っていないとの事実認定を行いました(筆者注:その結果、馳名商標民事事件の審理に関する解釈第7条の規定に基づけば、引用商標が馳名であることが認定されるべきことになります)。

 その上で、X社が引用商標が以前に馳名商標認定されたことがあることに関する証拠を提出している状況にあっては、引用商標が被異議申立商標の登録出願日よりも前に馳名商標となっていたと認定すべきであることなどを理由として、原審の判決の関連する事実認定は誤っているとしました。

四.留意点

 高級人民法院と原審は結論こそ大きく異なっていますが、「案件ごとの処理、受動的な認定」の原則を前提に、ただし以前に馳名の認定を受けた商標については、馳名商標民事事件の審理に関する解釈第7条を引用して判断することとしている点で、判断過程は共通しているものと考えられます。そして、本件では最終的に高級人民法院において馳名であると認められたものの、原審が判断したように、以前に馳名であるとの認定を受けていたとしても、必ずしもそれ以降も馳名であるとの認定が受けられるわけではないことに注意が必要です。

 なお、上記2および3では引用しておりませんが、高級人民法院および原審のいずれにおいても、訴訟で新たに提出された証拠は、当該証拠が商標評審委員会の行った裁定の根拠とならないことを理由に不採用としています。これは、商標法第33条に基づく訴訟が、商標評審委員会の行った裁定に対する不服に関する行政訴訟であることによると思われますが、このように提出証拠が制限されることからすれば、商標評審委員会の行う再審査までに有力な証拠を収集し、提出しなければならないことにも注意が必要です。

(注1)
馳名商標とは、「中国において関係する公衆に広く知られ、かつ比較的高い名声を有する商標をいう」とされています(「馳名商標の認定および保護に関する規定」第2条第1項)。

(注2)
一定の要件とは、①馳名商標が中国で商標登録されていない場合には、馳名商標を複製、模倣または翻訳した商標が、馳名商標が中国外における商標登録時に指定した商品・役務と同一または類似の商品・役務について登録出願されていること、馳名商標と容易に混同を招くことであり、②馳名商標が中国で商標登録されている場合には、馳名商標を複製、模倣または翻訳した商標が公衆を誤導し、馳名商標の登録者の利益に損害を与える恐れのあることです。

(注3)
本年8月30日に公布され、来年5月1日より施行予定の第三次修正商標法第14条第1項では「馳名商標は、当事者の請求に基づいて、商標に係る案件を処理するのに認定が必要な事実として認定を行う」と定め、「案件ごとの処理、受動的な認定」の原則を明文化したとされています。また、当該原則の徹底のため、「馳名商標」との文言を商品、商品包装、もしくは容器上、または広告宣伝、展覧およびその他の商業活動上において使用してはならない(第三次修正商標法第14条)との規定を新設し、馳名商標と認定されたことを殊更に利用したビジネス展開を行うことを制限しています。

(注4)
商標法第33条では、公告された商標に異議がある者は①商標局に対する異議の申し立て、また②商標局の決定に対して不服がある者は、商標評審委員会に再審査の申し立てができ、さらに③商標評審委員会による裁定に不服がある者は人民法院に訴訟を提起できるとされています。 

コラム執筆者
黒田法律事務所 
安江義成弁護士
鈴木龍司弁護士
呉強中国弁護士

黒田法律事務所・黒田特許事務所 
1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
http://www.kuroda-law.gr.jp/ja/tw/

日本・台湾・中国の法律はお任せ!
「ワイズリーガル会員」

http://www.ys-consulting.com.tw/legal/join.html

<お問い合わせ>
ワイズコンサルティング 
TEL:02-2528-9711
Email: member@ys-consulting.com