リーガル

記事番号:T00047599
2013年12月16日15:51

1. 事案

 日本企業X社は、大連市にある中国企業Y社から、同社が製造した殺菌剤Pを輸入し、日本国内で殺菌剤Pを原料として使用した塗料を製造・販売していました。しかし、当該塗料が日本の国の安全基準を大幅に超えているため販売ができなくなったことが判明し、技術鑑定の結果、その唯一の原因が殺菌剤Pにあることが分かりました。そのため、X社は、殺菌剤Pを用いて製造した塗料は全て廃棄せざるを得ず、輸送、保管、検品等に伴う費用等も損害として発生しています。X社はY社に対して、どのような請求をしてその損害の賠償を求めていくことができるでしょうか。

 なお、X社とY社間の殺菌剤Pに関する取引基本契約書には、準拠法を「日本法」、管轄を「被申立人の本店所在地における国際商事仲裁委員会の仲裁」とする規定があります。また、その後の調査で、殺菌剤Pは、中国の安全基準に照らしても基準値を大幅に超えていることが分かりました。

2. アドバイス

(1)結論

 取引基本契約書には「被申立人の本店所在地における国際商事仲裁委員会の仲裁」とありますが、仲裁合意が不明確として大連市での仲裁が行えず、大連市の中級人民法院に訴訟を提起しなければならない可能性があります。

 本件の場合、契約違反に基づく損害賠償請求と製造物責任に基づく損害賠償請求を行うことが考えられます。前者の場合、日本法が準拠法とされますが、後者の場合は中国法が適用される可能性があります。

国際仲裁による解決を選好

(2)解説

ア 管轄

 日中間の取引では、紛争解決を国際仲裁と合意する企業が少なくありません。日本の企業は、地元企業に有利な判断が出やすい、いわゆる地方保護主義が残る中国での裁判を避け、一方で日本で裁判を行ってもその判決を中国で承認・執行することができないため、国際仲裁による紛争解決を選択する傾向があります。

 しかし、中国で仲裁を利用するためには、当事者間において「選定する仲裁委員会」を含む仲裁合意を書面で明確にしておく必要があります(仲裁法第16条)。この点、本件では、「被申立人の本店所在地における国際商事仲裁委員会の仲裁」と規定するのみです。しかし、そもそも「国際商事仲裁委員会」という名称の仲裁機関が、「被申立人の本店所在地」である大連市には存在しておらず、また大連市に存在する「大連仲裁委員会」を指定する明確な規定もないため、仲裁合意が無効になる可能性が高いと考えます。

 仲裁合意が無効になった場合、X社とY社間で新たな仲裁合意がなされない限り、大連市の中級人民法院に訴訟を提起しなければなりません(「民事訴訟法」第19条および22条ならびに「渉外民事事件の訴訟管轄に関する若干問題についての規定」第1条および第3条)。

イ 準拠法

 渉外契約の当事者は、原則として、契約の紛争処理に適用する法律を選択することができる(民法通則第145条1項、契約法第126条1項)とされているため、契約で準拠法を外国法と定めることができます。本件においても、取引基本契約書において準拠法を日本法と規定しているため、X社が契約違反に基づく損害賠償責任をY社に追及する場合、準拠法は日本法になります。

 一方、製造物責任に基づく損害賠償請求を行う場合、「渉外民事関係法律適用法」第45条によれば、「製造物責任には、被害者の主たる営業地の法律を適用する」ことが原則とされています。しかし、①被害者が侵害者の主たる営業地の法律、損害発生地の法律の適用を選択する場合、または②侵害者が被害者の主たる営業地において関連事業活動に従事していない場合は、侵害者の主たる営業地の法律、または損害発生地の法律を適用するとされています。

 本件では、原則として、被害者であるX社の主たる営業地である日本法が適用される可能性がありますが、②Y社が日本において関連事業活動に従事していない場合は、人民法院が、侵害者の主たる営業地の法律である中国法を選択して適用する可能性もあります。

ウ 製造物責任法

 契約法に基づく請求や製造物責任を前提に、日本法が適用される場合には、X社にとってなじみがありますが、製造物責任を前提に、人民法院が中国法を適用する場合、どうなるでしょうか。

 この点、中国の製造物責任法に相当する「製品品質法」第41条は、「製品に欠陥が存在したことにより欠陥製品以外のその他の財産に損害が生じた場合、製造者は損害賠償責任を負わなければならない」と規定しています。

 すなわち、被害者は、①損害の発生②製品の欠陥③欠陥と損害の因果関係の3点を証明すれば、日本の製造物責任法と同様に、製造者の過失を立証しなくても損害賠償を求めることができます(無過失責任)。

 そして、ここでいう②製品の欠陥とは、「製品品質法」第46条によれば、「製品に人身および他の財産の安全に危害を及ぼす不合理な危険が存在すること」をいい、「製品に人体の健康、人身および財産の安全を保障する国家基準、業界基準がある場合、当該基準に合致しないことをいう」とされています。

準拠法によって異なる結果も

 本件で損害賠償請求をするためには、X社は、①廃棄処分する殺菌剤Pを用いて製造した塗料の価格、当該塗料に要した輸送、保管、検品等の具体的な費用金額等の損害の発生②殺菌剤Pに不合理な危険が存在し、中国の安全基準に合致しないこと③殺菌剤Pの欠陥によって当該塗料が不合格品として廃棄処分しなければならなくなったという因果関係について、技術鑑定機構、資産評価機構等による鑑定等を通じて立証する必要があります(日本で行った鑑定結果を証拠にする場合、日本公証役場での公証手続および駐日中国大使館・領事館で認証手続きを行う必要があります)。

 なお、仮に、殺菌剤Pが日本の安全基準には違反しているが、中国の安全基準には違反していないといったような場合、中国法が準拠法とされることにより、中国の「製品品質法」上は、製品の「欠陥」が認められないといった事態が生じるリスクもあります。

 以上の立証ができれば、塗料の価格、当該塗料に要した輸送、保管、検品等の費用金額等について賠償を受けられる可能性があります。しかし、これらの費用金額等について全額賠償を受けられるとは限りません。

 例えば、X社が殺菌剤Pの製品合格証明および製品基準等を確認しないまま検収し、または塗料の製造工程において原料となる殺菌剤Pの検査や品質管理の義務等を怠ったといったような場合には、損害結果に対しX社にも過失があると認定され、その程度に応じて過失相殺がなされ、損害賠償請求金額の一部しか認められない可能性もあります。

コラム執筆者

黒田法律事務所 
安江義成弁護士 
竹田昌史弁護士
呉嵐嵐中国弁護士

黒田法律事務所・黒田特許事務所 
1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
http://www.kuroda-law.gr.jp/ja/tw/

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