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記事番号:T00048517
2014年2月10日15:56

北京市高級人民法院 2012年11月26日判決
(2012)高民終字第918号

一.はじめに

 最高人民法院は、13年10月22日の新聞発表会において、「知的財産権の司法保護に関する典型判例」として8件の判例を公表しました。今回ご紹介する判例は、その一つに当たります(注1)。本判例は「民事判決」の際に、人民法院が当事者を過料に処する旨の「民事制裁決定」および人民法院が工商部門に意見を述べた「司法建議」が同時に出され、司法が外国企業の知的財産権を厳格に保護した特殊な判例と言えます。

二.事案の概要

 ドイツのBMW社は、中国で、自動車や服飾品などの商品において、「BMW」、「宝馬」(baoma:BMWの中国語の名称)やその標章を登録していた。中国企業X社は、これらと類似の文字や標章を付した服飾品を生産・販売し、ホームページや店舗でも同じ文字や標章を使用するなどしていた。そこで、BMW社は、X社の①類似標章などの使用の即時停止②経済的損失および支出した合理的費用として200万人民元の支払い③日刊紙へ声明掲載による影響除去などを求め中級人民法院に訴訟を提起した。原審は、①③について認容し、②は金額を50万元として認容する判決を下したが、原審の判決を不服として双方が高級人民法院に上訴した。

三.高級人民法院の判断

1.民事判決

 上記①③は原審を維持し、②は原審の判断を変更し、X社は200万元を賠償するものとする。

2.民事制裁決定

 X社を10万元の過料に処する。

3.司法建議

 国家工商行政管理総局に司法建議を出し、権利侵害行為に対する全面的な取り締まりを提案した。

四.各判断についての解説

1.民事判決

 本判決は、原審で50万元しか認容されなかった賠償額を、BMW社の請求通り、200万元にまで増額しました。

 この点、現行の「商標法」第56条(注2)は、商標専用権侵害に伴う損害賠償額の金額について以下の順で確定するとしています。

①権利侵害者が侵害により得た利益または権利者が侵害により受けた損失に基づき確定

②①が困難な場合、侵害行為の情状により50万元以下の賠償を人民法院が判決

 原審は、②に基づき賠償額を50万元と確定しましたが、本判決では、「二審で新たに提出された証拠からすれば、X社の権利侵害の主観的悪意は明らかであり、侵害の期間も長く、その範囲も広く、獲得した利益は巨大で200万元をはるかに超えており、情状は極めて重い。BMW社は比較的高い知名度を有する登録商標への侵害行為を制止するために合理的費用を支払っており、権利者の合法的な権益を充分に保障するためには、権利侵害の代価を高くし、権利維持コストを低くし、200万元の賠償請求を全額支持する」と判示しています。

 すなわち本判決は、具体的な損害額を確定しなかったものの、新たに提出された証拠からX社が獲得した利益は「200万元をはるかに超えている」と認定し、請求額を全て認容する判決を下しました。この点、典型判例の公表記事では「法定の賠償方式を採用せずに、事件の具体的な状況に基づき裁量権を行使し賠償額を定めた」と評価しています。

2.民事制裁決定

 「民法通則」第134条3項が人民法院の過料の権限について規定し、「最高人民法院の『民法通則』の徹底的執行に関する若干問題の意見」第163条1項では、「訴訟において事件と関連する違法行為に制裁が必要とされた場合、民法通則第134条3項を適用し、法律の規定に従い過料などに処することができる」と規定しています。

 一方で、現行「商標法」第53条が工商行政管理部門による過料を定め、「最高人民法院の商標民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題の解釈」第21条1項では、「人民法院は登録商標専用権の侵害紛争事件の審理において、民法通則第134条、商標法第53条の規定および事件の具体的な状況に基づき、過料などに処する旨の民事制裁の決定を出すことができる」と規定しています。

 もっとも、「工商行政管理部門が同一の登録商標専用権侵害行為に対して既に行政処罰を行っている場合、人民法院は改めて民事制裁を行わない」(同条2項)とされており、本件でも行政機関は民事制裁決定までにX社に行政処罰を行っていません。

 また、過料額については「商標法実施条例」を参照して確定できるとされていますが(同条1項)、その額について商標法実施条例第52条は、①違法売上額の3倍以下、②それが算定できない場合は10万元以下と規定(注3)しており、本判決は②に基づき10万元の過料を決定しました。

3.司法建議

 「司法建議」とは、一般的には、人民法院の審判業務において、紛争および犯罪の発生を防止することを目的に事件中の管理部門などの制度上・業務上存する問題について、規則制度の整備、脱法の防止、科学管理の実施、管理業務の改善等に関して提出する人民法院の意見とされています。

 もともとは行政訴訟法第65条や民事訴訟法第103条で規定されているように、人民法院の執行に協力しない者に対する制裁として出されていたようですが、07年公布の「最高人民法院の社会主義および和諧社会構築のための司法保障に関する若干の意見」第19条において、「審判において発見した治安上の隠れた危機および管理上の脱法について、積極的に司法建議を提出する」と規定されてからは、各地の人民法院でも上記の定義のような広い範囲で司法建議が提出されるようになり、12年には最高人民法院が「司法建議業務を強化することに関する意見」を公布し、その規範化に努めています。

 本判例でも、人民法院から工商部門に対して、事件の審理において発見されたその他の未処理の権利侵害行為に積極的に対応するよう、その処理案が提出されたとされています。

五.まとめ

 本判例は、民事判決、民事制裁決定および司法建議を通じて商標専用権侵害者に対して非常に厳格な対応をしています。

 典型判例の公表記事でも「本判例は、中国の法院が、中国および外国の知的財産権者の合法的利益を平等に保護し、公平で秩序ある市場経済秩序を維持し、知的財産権の保護程度を高める決心と行動の表明と言える」と評価しており、今後もこのような形での知的財産権の厳格な保護が進められていくことが期待されます。

(注1)本判例は、北京法院が公布した「12年知的財産権訴訟10大判例」にも選ばれています。

(注2)14年5月1日施行予定の改正商標法第63条は、②の賠償額の上限を300万元にまで拡大するなど算定方法について修正を加えています。

(注3)改正商標法第60条は、①違法売上額が5万元以上の場合その5倍以下、②違法売上額がないまたは5万元未満の場合25万元以下とするなど罰則を強化しています。

コラム執筆者
黒田法律事務所 
安江義成弁護士
呉嵐嵐中国弁護士
藤田大樹KLO投資顧問

黒田法律事務所・黒田特許事務所 
1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
http://www.kuroda-law.gr.jp/ja/tw/

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