リーガル

記事番号:T00048781
2014年2月24日16:03

【事案】

 日本企業A社は、2009年に中国現地法人B社を設立しました。B社はその優れた技術で市場を開拓し、順調に売り上げも伸びていましたが、従業員の一人から以下のような内部告発がありました。中国人総経理X(以下「X」という)の妻が株主・董事長を務めるC社がB社と同種の製品を取り扱っており、XはB社の顧客に対してC社の製品を売り込みながら、そのために使った旅費、贈答品などの費用をB社の経費として請求しているというものでした。また以前、Xは自らの判断で設立当初のC社に対してB社の製品を販売したものの、その代金がいまだに回収されていません。


【分析】

1.総論

 最近、中国ビジネスでは「現地化」が一つのキーワードであり、中国人従業員に重要な役職を任せる日本企業も増えています。中国人が総経理など重要な役職に就くことで、中国人従業員を上手に管理し、会社の業績向上につながる場合があります。他方で、その地位を乱用して会社に重大な損害をもたらすリスクもあります。本事例のように、総経理がその地位を乱用して自分の近親者の利益を図り、会社に損害をもたらす場合、会社としては、中国人総経理の処遇を検討しなければなりません。

2.会社法上の責任

 総経理は、中国の会社法上、会社に対する忠実義務を負い、同義務に違反する行為が禁止されています。

(総経理の忠実義務:会社法第148条)

董事、監事、高級管理職※注1)は、法律、行政法規および会社定款を順守し、会社に対して忠実義務および勤勉義務を負う。

董事、監事、高級管理職は、職権を利用して賄賂またはその他の不法な収入を得てはならず、会社の財産を横領してはならない。

(総経理の禁止事項:会社法第149条の抜粋)

董事、高級管理職には、次の各号に掲げる行為があってはならない。

④会社定款の規定に反し、または株主会、株主総会または董事会の同意を得ずに、自社と契約を締結し、または取引を行うこと

⑤株主会または株主総会の同意を得ずに、職務上の便宜を利用して自己のため、または他人のために会社の商機を奪い、在任する会社と同種の業務を自営し、または他人のために経営すること

⑧会社に対する忠実義務に反するその他の行為

 本事例の場合、Xは総経理の立場を利用して、B社の顧客に対して、同種の製品を取り扱うC社の製品を売り込むことでC社の便宜を図り、B社の商機を奪っています。さらにC社の製品の売り込みに使った費用をB社の経費として請求しており、会社法第149条第5号の禁止行為に該当します。

 また以前、Xの判断でC社に対してB社の製品を販売したものの、その代金がいまだに回収されていません。このように株主総会または董事会の同意を得ずに自分の妻が株主・董事長を務めるC社と契約を締結することは、会社法第149条第4号の禁止行為に該当します。なお、本事例でX自身は取引当事者ではありませんが、中国の裁判例上、身内が経営する会社と契約した場合も同条同号に該当すると判断した事例があります。

 会社法第150条によれば、総経理を含む高級管理職が、会社の職務を執行する際に法律、行政法規または会社定款の定めに違反し、会社に損害を与えた場合、当該高級管理職は賠償責任を負います。従って、本件で総経理の役職にあるXは会社法上の忠実義務に基づく禁止行為を行っていますので、これらの禁止行為により会社に損害が生じた場合、会社はXに損害の賠償を請求することができます。

3.労働契約の解除

 2.では会社法上の「総経理」の責任について説明しましたが、Xの影響力を完全に排除するためには、会社がXとの労働契約の解除まで考える必要があります。この場合、労働契約法上の問題についても検討しなければなりません。使用者による労働契約の解除については、①労働者の帰責事由に基づく一方的解除(同法第39条)、②労働者の帰責事由に基づかない予告解除(同法第40条)があります。本事例では、①が問題となります。

(使用者による一方的解除:労働契約法第39条の抜粋)

労働者が次の各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合、使用者は労働契約を解除することができる。

②使用者の規則制度に著しく違反した場合

③重大な職務上の過失を犯し、私利のために不正を働き、使用者に重大な損害をもたらした場合

 本事例では、Xは自らの地位を利用して妻が経営するC社の便宜を図った上、C社の販売費用をB社の経費として請求しており、労働契約法第39条第3号に該当すると思われます。もっとも同条項では、単なる私利行為だけではなく、同行為により「使用者に重大な損害をもたらした」ことが条件になっています。そして、「重大な」という文言の解釈については、法律上の規定や最高人民法院の司法解釈で規定されておらず、個別の裁判で判断されることになります。そのため、会社がXを解雇する際には、Xから労働仲裁等を提起されるリスクを考慮して、会社がどのような損害を被り、その損害が会社にいかに重大であるかを事前に分析・検討しておくことが重要です。

 また総経理が不正行為を働く場合、会社が調査に乗り出す前に証拠が隠滅されるリスクがあります。そのため、会社の動きを事前に総経理に察知されないよう情報管理を行い、調査に協力してもらう従業員も慎重に選定する必要があります。

4.まとめ

 今後、中国ビジネスの「現地化」に伴い、中国人従業員が重要な役職に就く機会が増えると予想されます。日本企業としては、中国人の能力を評価しながらも、その地位を利用した不正行為について十分に目を光らせておくことが重要です。

以上

※注1)「高級管理職」は、会社の総経理、副総経理、財務責任者、上場会社の董事会秘書及び会社定款に定めるその他の者を指します(会社法第217条第1号)。 

コラム執筆者
黒田法律事務所 
安江義成弁護士
竹田昌史弁護士
金鮮花中国弁護士

黒田法律事務所・黒田特許事務所 
1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
http://www.kuroda-law.gr.jp/ja/tw/

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