リーガル

記事番号:T00049795
2014年4月17日15:33

 皆さん、こんにちは。黒田日本外国法事務弁護士事務所の顧問の佐田友です。

 先日、台北郊外まで足を伸ばし、九份まで出かけてきました。以前一度だけ行ったことがあったのですが、その際、残念なことに有名なアニメ映画『千と千尋の神隠し』のモデルとも言われる急な階段脇の建物や、レトロな映画館などを見逃していたので、今回はしっかり見てきましたよ。ちょうど、夕方くらいに着いて少し散策し、茶館に入って夜の基隆湾を眺めながら過ごすのは確かに気持ちよかったです。日本からの出張者が来るたびに付き合わされて、もう行きたくないという方は別にして、まだ行かれたことがない方は行く価値があるように思いますよ~。

「ついカッとなって」

 さて、本日は台湾の刑法にある、「義憤殺人罪」という犯罪について紹介したいと思います。どのような行為を処罰する犯罪かといいますと、「義憤」に駆られて、「その場で」殺人を犯した者を処罰する犯罪です。「義憤」「その場で」がキーワードになりますが、「義憤」に駆られることが発生した、まさに「その場で」殺人が実行されることが本罪の成立に必要になります。

 「義憤」という言葉は、皆さまも聞いたことはあるでしょうが、現代日本で日常的に使う言葉じゃないですよね。辞書で意味を調べると、「道義に外れたこと、不公正なことに対する憤り」とありました。

 「その場で」については、厳格に判断されるようです。例を挙げますと、息子が車にはねられ死亡したと聞いた父親が、包丁を隠し持って病院に行き、加害者が謝罪しないので、怒りのあまり準備していた包丁で加害者を殺害したというケースでは、義憤殺人罪が成立する可能性は非常に低いといえます。包丁を「事前に」準備している時点で、「その場で」とはいえなくなると解されるんですね。

 少し例を変え、包丁を持たずに父親が病院に行き、加害者の態度を見て逆上し、殴り殺したとすれば、義憤殺人罪が成立する可能性が出てくるといえます。ただし、後ほど説明するように、「義憤殺人罪」は通常の殺人罪より法定刑が軽いため、裁判官が非常に厳格に認定を行うということもあり、「義憤殺人罪」を適用するケースは非常に少ないと同僚から聞きました。

 どのようなケースが典型的な「義憤殺人罪」の事例なのかですが、教科書事例としては、「夫が、気分が悪く早めに帰宅したら、妻が見知らぬ男性と姦通しているのを目撃し、その場で逆上した夫が、その男性を殺害した」というようなケースのようです。ただ、前述したように、実務上、非常に適用されることは少ないということなので、実際に「義憤殺人罪」が適用されない可能性もあり、刑法上、犯罪類型が残っているだけなのかもしれません。

7年以下の有期懲役

 「義憤殺人罪」は通常の殺人罪と比較して、可罰性が低いと考えられ、その帰結として、法定刑についても、通常の殺人罪が、死刑、無期懲役、または10年以上の有期懲役であるのに対して、「義憤殺人罪」は7年以下の有期懲役とされています。

 日本では、このような「義憤殺人罪」がない代わりに、通常の殺人罪の範囲で、裁判官が情状などを考慮して、比較的軽い処罰を科すことでバランスを取っていると考えます。日本の殺人罪の法定刑が死刑、無期懲役、または5年以上の有期懲役(酌量減軽すれば、執行猶予も可能)ですので、日本の殺人罪の方が台湾の殺人罪より軽い処罰が可能なことが分かりますね。

日本より細かい分類

 歴史的に見れば、台湾の「義憤殺人罪」は、清の時代の法規の影響が残っているとする学者もいるようです。台湾刑法には、他にも母親が出産時などに、自ら産んだ子を殺害した場合に通常の殺人罪より軽く処罰する「母殺嬰児罪」という犯罪類型や直系の尊属(親族関係において先の世代にあること)を殺害した場合に重く処罰する規定があります(日本にも以前、尊属殺人罪が存在しましたが、今はもうありません)。「殺人」について、台湾は日本より細かな類型が存在しているといえます。 

佐田友浩樹弁護士

佐田友浩樹弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

京都大学法学部を卒業後、大手家電メーカーで8年間の勤務の後、08年に司法試験に合格。10年に黒田法律事務所に入所後、中国広東省広州市にて3年間以上、日系企業向けに日中英の3カ国語でリーガルサービスを提供。13年8月より台湾常駐、台湾で唯一中国語のできる弁護士資格(日本)保有者。趣味は月2回のゴルフ(ハンデ25)と台湾B級グルメの食べ歩き。