リーガル

記事番号:T00064292
2016年5月23日16:05

 弊職は日本企業から依頼を受け、顧客の利益とニーズを踏まえて、台湾法に合致する代理店契約を作成することがよくある。また、代理店契約に関する紛争事件を手掛けることも多い。以下の判例は、台湾で事業を経営する予定の、または既に台湾で事業を経営している日本企業にとって参考となるであろう。

 日本企業A社は、台湾のB社を台湾におけるA社製品の独占的販売代理店としてB社と契約を締結していた。その後、B社の販売状況が悪くなり、またA社が指示する販売戦略などにB社が従わなかったため、A社はB社との代理店契約を終了し、台湾で新しい代理店と代理店契約を締結した。A社・B社間の代理店契約の終了後、B社は大幅な安値でA社製品の在庫品を販売し、新しい代理店の販売に影響を与えていた。また、B社はA社の商標を引き続き使用していた。A社は、B社の行為の差し止めを求めて台湾で訴訟を提起することを検討していたが、B社との代理店契約に、「本取引により生じた双方間の紛争は、日本で仲裁を申し立てて解決するものとする」と規定されていることに初めて気付いた。

仲裁事項が障壁に

 本件の主な問題点は2つある。

1.AとBの2社は紛争解決の方法を「日本で仲裁」とした。台湾の仲裁法第4条によれば、当事者間に仲裁条項が存在する場合において、いずれかの当事者が仲裁を申し立てずに直接訴訟を提起し、他方の当事者が異議申し立て(すなわち「妨訴抗弁」)を行うときは、裁判所は審理を停止の上、一定の期間内に仲裁を申し立てるよう訴訟提起当事者に命じなければならない。訴訟提起当事者がこれを順守しない場合であっても、裁判所は審理を継続できず、直接に訴えを却下しなければならない。

2.A社が日本での仲裁を申し立てた場合、日本の仲裁費用は非常に高額であるため、A社は先に巨額の仲裁費用を支払わなければならない。また、A社が有利な仲裁決定を勝ち取ったとしても、日本の仲裁決定は台湾の裁判所の認可を得た後でなければ、B社に対して強制執行を行うことができない。このような点から、かかる時間が非常に長くなる。

 このため、本件の代理店契約における仲裁条項が、逆にA社が台湾においてB社に法的措置を講じることの障壁となってしまっている。

 その後、弊所がA社の代理人となって、台湾の裁判所に何度も仮処分を申請したことによって、台湾の各エリアでのB社による違約販売行為を差し止めることができ、本件紛争は解決した。

違約金額の明記を

 本件紛争により、代理店契約を作成する際に注意すべき点は以下の通りである。

1.紛争解決条項の内容は、執行の難易度を考慮すべきである。ただし、日本法と台湾法に精通した法律事務所を法律顧問とするならば、「台湾で訴訟」「台湾で仲裁」のいずれを紛争解決の方法としても、日本企業に特に不利な点はない。

2.メーカー側の具体的な損失の立証、計算の難しさにより、賠償請求時に困難が生じるのを避けるため、代理店契約においては、代理店が違約した場合の違約金の金額を明確に記載するのがベターである。

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

蘇逸修弁護士

蘇逸修弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、法務部調査局に入局。板橋地方検察署で、検事として犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などの業務を歴任。2011年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。