リーガル

記事番号:T00064583
2016年6月6日15:54

 日本企業と台湾企業が台湾で合弁会社を共同で設立した場合、日本企業が台湾市場から撤退するに当たって、合弁会社の株式を売却しなければならない状況が生じる可能性がある。この場合、当該株式の処分に関し、買主と株式売買契約を締結しなければならない。以下は弊所が対応した実際のケースである 。

 日本企業A社と台湾企業B社は、台湾において合弁によりC合弁会社を設立し、A社はC社の株式の34%、B社は66%を保有した。A社は経営方針の関係上、台湾市場からの撤退と、C社の全株式の処分を決定したため、A社とB社はC社との株主間契約に基いて、B社がA社の保有するC社の全株式を購入するこで、協議の上、合意した。ところがB社が作成した株式売買契約書において、以下の条件が設けられた。

1.A社は●年●月●日までに、C社の34%の株式を代表する株券を、裏書譲渡によってB社に交付しなければならない。

2.B社は、A社の交付したC社の株券を受領し、かつC社による株主名簿の変更の完了後、翌日のうちに本件の売買額をA社の銀行口座に振り込まなければならない。

詳細な部分まで注意が必要

 A社は、上記の取引条件は問題がないと考えたが、念のため、弊所に意見を聞いた。弊所は「当該取引条件を受け入れるべきではない」とアドバイスした。その理由は以下のとおりである。

1.台湾会社法第164条には「記名式株券の譲渡は、株券所有者が裏書をもって行うものとし、かつ譲受人の氏名または名称を株券に記載しなければならない。無記名式株券の譲渡は引き渡しをもって行うことができる」と規定されている。本件において、C社の株券は、株主の氏名の記載がある記名式株券であるため、A社が裏書によってC社の株券をB社に交付した時に、B社は当該C社の株券の所有権を確かに獲得したことになる。

2.台湾会社法第165条第1項には「株券の譲渡は、譲受人の氏名または名称および住所または居所を会社の株主名簿に記載しなければ、その譲渡をもって会社に対抗することはできない」と規定されており、株主名簿における株主名義の変更は、株主が会社に株主の権利を主張できるか否かの対抗要件だけであって、株券譲渡の有效性条件ではないことが当該規定からも理解できる。よってB社が株主名簿の変更をB社の支払いの前提条件とすることは、合理的ではない。

3.株主名簿の変更作業は、一般的に株式を発行した会社が自ら行うか、または当該会社が委託した株式事務代理人が行うものである。本件において、B社が保有するC社の株式が66%にも達し、C社の内部作業に対して絶対的な掌握権を有するため、A社がB社の提案した支払条件に同意した場合、B社は株主名簿の変更を行わないという手段を通じて、支払義務を永遠に生じさせないようにする可能性がある。

 本件について、弊所の提案の下、上記の「2」の支払条件を「B社は、A社の交付したC社の株券を受領し、かつC社による株主名簿の変更の完了後翌日のうちに、本件の売買額をA社の銀行口座に振り込まなければならない。ただし、株主名簿を変更しない場合であっても、B社は遅くともC社の株券受領後の30日以内に支払わなければならない」と修正し、B社の支払義務を明確化した。

 台湾の会社と株式取引を行うにあたっては注意すべきことが非常に多いため、日本法、台湾法に精通した法律事務所に依頼してリーガルチェックを行ってもらうべきである。

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

蘇逸修弁護士

蘇逸修弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、法務部調査局に入局。板橋地方検察署で、検事として犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などの業務を歴任。2011年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。