ファウンドリー最大手、台湾積体電路製造（TSMC）は20日、ドイツ東部ザクセン州ドレスデンで、同社にとって欧州初となる半導体製造工場の着工式典を行った。ドイツのショルツ首相や欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長、顧客やサプライヤーなど200人が出席した。魏哲家（シーシー・ウェイ）董事長は式典のあいさつで、顧客に近いドレスデンで工場を建設し、再生可能エネルギーを100％使用することで、コストが上昇するため「顧客とよく話し合う」と語り、値上げを示唆した。21日付工商時報などが報じた。

魏・董事長は、ドイツ政府の誘致を当初は断るつもりだったが、誠意にあふれる態度で、十分な予算を準備すると言われ、決断したと語った（20日＝中央社）

　魏・董事長は、ドレスデンに工場を設置する理由として、顧客に近いこと、優秀な人材を雇用できることを挙げた。水資源の回収を行い、再生可能エネルギーを100％使用するためコストが上昇すると説明した。

　TSMCは価格調整についてコメントしていない。業界関係者は、海外工場は建設費や人件費などが台湾よりも高いため、コストを価格に反映するのは自然なことだと分析した。

欧州で初のFinFET工場

　ドレスデン工場は第4四半期（10〜12月）に建設を開始し、2027年末に生産を開始する予定だ。雇用機会2000件を創出する。

　車載向けに22/28ナノメートル製造プロセスの相補性金属酸化膜半導体（CMOS、シーモス）、16/12ナノの立体構造トランジスタ（FinFET、フィンフェット）技術を採用する。欧州連合（EU）でFinFETを採用する初めての工場だ。月産能力は12インチウエハーで4万枚の計画。

　市場では、将来的に高電圧・大電流の第3世代半導体も生産するとの見方もある。

50億ユーロ補助

　ドレスデン工場は、昨年設立したヨーロピアン・セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー（ESMC）が建設する。ESMCの出資比率は、TSMCが70％、▽自動車部品最大手のボッシュ、▽半導体大手のインフィニオン・テクノロジーズ、▽NXPセミコンダクターズ──の3社がそれぞれ10％。投資額は100億ユーロ（約1兆6200億円）以上。

　ショルツ首相は、ドレスデンは欧州最大の半導体集積地（クラスター）で、半導体関連の就業者は5万人以上に上り、TSMCは欧州経済のレジリエンス（強靭性）向上に重要な役割を果たすと語った。

　フォンデアライエン欧州委員会委員長は、EUは昨年9月に欧州半導体法（European Chips Act）が発効しており、ESMCのドレスデン工場建設と運営を支援するため、ドイツ政府の補助金50億ユーロを承認したと説明した。

　欧州委員会は20日、中国製の電気自動車（EV）への最大36.3％の追加関税率を発表した。11月4日までに最終決定する予定だ。欧州の自動車メーカーは、中国の自動車メーカーの台頭に対抗するには追加関税だけでは不十分と考え、TSMCと車載用半導体を研究開発（R＆D）するとみられている。

半導体の地産地消

　ドレスデン工場は、魏・董事長が6月に就任して以降、初めての海外工場の着工だ。TSMCは、アジア（台湾、中国、日本）、米国、欧州で工場設置計画を進め、「太陽の沈まない」ファウンドリー工場を構築している。中国工場は中国市場向けを生産する「チャイナ・フォー・チャイナ、ノンチャイナ・フォー・ノンチャイナ」で、マクロ経済や地政学リスクの影響を軽減する。

　投資顧問会社、台新証券投資顧問の黄文清・副総経理は、ESMCはTSMCが持ち株7割で主導しており、ドレスデン工場は建設や設備など全てTSMCのサプライチェーン（供給網）を活用すると予測した。

　TSMCのサプライヤーは、▽IC設計大手の聯発科技（メディアテック）、▽シリコンウエハー世界3位の環球晶円（グローバルウェーハズ、GWC）、▽半導体パッケージング・テスティング（封止・検査）最大手、日月光投資控股（ASEテクノロジー・ホールディング、ASEH）、▽半導体設備メーカー、帆宣系統科技（マーケテック・インターナショナル、MIC）──などが既に欧州に進出している。

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