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第184回 官民癒着による土地転がし


ニュース 法律 作成日:2015年7月22日_記事番号:T00058254

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第184回 官民癒着による土地転がし

 1989年から桃園県長を務めた劉邦友氏は、在任中の96年に県長公邸において、何者かによって他の7人と共に処刑的な手段で殺害されました。いわゆる「劉邦友命案」で、事件はいまだに解決していません。その後、桃園県長の補欠選挙が行われ、後に副総統となった呂秀蓮氏が当選、長年続いていた国民党による桃園支配が一時的にですが幕を閉じました。

土地所有者に補償金請求

 03年8月、台塑集団(台湾プラスチックグループ)の創業者、王永慶氏(08年に91歳で死去)の知人であり、劉邦友氏の前任桃園県長の兄嫁である王淑惠氏が桃園地方裁判所に訴訟を提起しました。王淑惠氏の主張は、▽自らの所有する150筆の土地は李阿全氏の名義下に置かれている▽桃園県政府は「桃園科技工業園区」を設立するために、それらの土地を徴収することとなった▽しかし、徴収に関する補償金2億3,000万台湾元余りから、抵当分と税金を差し引いた差額の約7,500万元は、名義上の所有者である李氏に取られてしまったため、李氏に対してその返還を求める──というものでした。

 桃園地裁は05年7月に王淑惠氏全面勝訴の判決を下し、同判決は07年2月に確定しました。これに対して李氏は支払いを拒否するため、自らの娘である李秀娥氏、およびその他の関係者と共に、士林地方裁判所検察署に対して刑事告訴を提起し、▽王淑惠氏が所有を主張している土地は、そもそも劉氏らが共同投資して購入した501筆の土地の一部である▽王淑惠氏は管理をしている経理人である▽王淑惠氏が李氏に対して150筆の土地の補償金を請求した行為は、土地の横領に当たる行為である──と主張しました。

横領と判断、有罪に

 士林地検署は、王淑惠氏は他者のために管理している土地の補償金を横領したと判断し、12年に王淑惠氏を「背信罪」で起訴しました。士林地方裁判所は15年5月26日、王淑惠氏に懲役3年の有罪判決を下しましたが、裁判所が判決の中で採択した最も重要な証拠は、劉氏の未亡人である彭玉英氏の以下のような証言でした。

 90年、王永慶氏は劉邦友桃園県長夫妻を会食に招待し、その席上、劉氏に対し、桃園県観音郷に「第6ナフサ分解プラント(六軽)」を建設するために購入し、そのまま放置されていた農地の使用用途を工業用地へと変更するよう求め、「土地の価格をつり上げることは、現地の農民の利益になるばかりでなく、桃園県のさらなる発展にも貢献できる」と話した(筆者注:88年3月、台プラは宜蘭での六軽工場建設計画が阻まれたため、観音工業区に予定地を変更、しかしそこでも住民の抗議などにより実施が阻まれた。同年7月には環境保護署の環境影響評価にも合格したが、より一層の抗議を受ける結果となったため、90年初頭に中国福建省海滄で工場の建設を行うこととなった)。

王永慶氏から土地501筆を購入

 王永慶氏は、現地の土地501筆、計93甲(約0.9平方キロメートル)を「放出」し、劉氏は、現地関係者および王永慶氏の指名を受けた王淑惠氏および許正隆氏(桃園県地政局長、当時)などの参加によって、共同で事を運ぶよう指示した。劉氏はまた、県議会議員である郭春成氏、郷民代表である李秀娥氏、黄国輝氏、県農会総幹事である黃勝煥氏らを参画させ、これら合計7人で「7大株主」を構成、1株当たり2,100万元の出資を募り、結果、総額6億3,000万元(1甲当たり680万元)で王永慶氏より前述の土地を購入した(判決の中では、郭春成氏と、李秀娥氏の父親である李阿全氏らも1株保有していると認定している)。これらの土地は、李阿全氏ら14人の「農民」の名義で登記され、また、投資額の不足分5億元については、公営の合作金庫銀行と観音郷農会から融資を受けた。しかし、出資者は全て政治家であったことから、王淑惠氏が全ての事務処理を代行した。

倍の価格での土地売却で合意

 96年の「劉邦友命案」の発生後、農業用地を工業用地へと利用目的を変更する計画は暗礁に乗り上げ、出資者たちは利子の負担に耐えられなくなったため、97年5〜6月に会議を開き、1甲当たり1,540万元で台プラに土地を買い取ってもらうことで話がまとまった。しかし、彭玉英氏と李秀娥氏、およびその父である李阿全氏は「自分たちが処理をする」と申し出た──。

 士林地裁の判決はこの他にも以下のような認定を行っています。▽桃園県政府(朱立倫県長、当時)は、最終的に03年に桃園科技工業園区を設立する名目で、李阿全氏が所有していた150筆の土地を徴収した▽「7大株主」は土地購入後、亜洲信託投資から8億元を超える融資を受けた▽購入した土地は便宜上全て他者の名義下に登記されていたため、出資者は各種の手段で土地に抵当を付けるなどして、その権利の保障を図った▽土地が徴収された後、出資者たちは、補償金を「争奪」するため、桃園地裁に対して多くの民事訴訟を提起し、多くの判決はこの「7大株主」の投資計画を認めた。

不法な土地転がしと認定

 さて、多くの証人の供述がほぼ同じであったこともあり、裁判所は王淑惠氏の背信罪を認定しました。裁判官は判決の最後に本案件のまとめを記していますが、それは以下のように、官民癒着による土地転がしの本質をうがったものでした。

 「いわゆる『土地転がし』とは、インサイダーなどの特殊な関係により、土地の価格が高騰することを知り得たために、事前に大量の土地を購入し、土地の価格が高騰した後に土地を手放すことであるが、これには多くの場合、官民の不法な癒着関係が関わっている。本件については『7大株主』による分配の外、行政プロセスの重要関係人の協力や、短期間内での多額の土地購入費用の調達などが必要であったため、上下間の連絡は一方通行的なものであった。また、資金については、土地の購入金額と比較して、少ない自己資本で高いレバレッジを保っていることが認められる」。

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