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第65回 経済運営に苦悩する蔡政権、求められる発想転換


ニュース 政治 作成日:2016年12月16日_記事番号:T00068057

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第65回 経済運営に苦悩する蔡政権、求められる発想転換

 台湾経済界で蔡英文総統への厳しい評価が定着しつつある。『天下雑誌』が先週発表した、企業の最高経営責任者(CEO)へのアンケート調査(有効回答658件)で、蔡英文政権に「不満足」との回答は58%に上ったのに対し、「満足」は18%とその3分の1以下の数字にとどまった。就任の際は経済発展を最優先課題として取り組む姿勢を強調したにもかかわらず、7カ月後の現在は失格評価を下されているに等しい。

/date/2016/12/16/20news1_2.jpg経済回復を市民に実感させなければならない必要性は、蔡総統自身も強く自覚しているとされる(中央社)

 保守的な国民党政権の野党として出発した民進党はもともとリベラル色が強く、労働者の権益向上、環境、女性の権利向上、原住民、反原発などのテーマを重視する。先週成立した改正労働基準法(労基法)は週休2日制の導入のほか、入社間もない従業員にも特別休暇を付与するなど労働者寄りの内容となった。最低賃金も来年1月から今年比で月給5%、時給10%の大幅アップとなる。環境に関しては、排煙の硫黄含有量を問題視された台湾化学繊維(フォルモサ・ケミカルズ&ファイバー、台化)の彰化工場が9月に操業停止に追い込まれたことが記憶に新しい。中台関係の悪化によって中国人観光客の訪台が減り、観光業者が打撃を受けたことは改めて指摘するまでもないが、今週には製靴大手の豊泰企業が中国で2億2,000万人民元もの巨額追徴課税を要求されるという、台湾企業への狙い撃ちをうかがわせるニュースが伝えられた。

 蔡政権への交代後、企業の経営環境にとってこれらのマイナス現象ばかりが目立つようになった。台化工場が操業できなくなった台塑集団(台湾プラスチックグループ)は、先月下旬に行ったグループの運動会に馬英九前総統を招待した。すなわち退任した総統を招くことによって、現政権は落第との意思表示をしたのだった。

「経済構造の転換」、方針に欠陥

 蔡総統への数々の批判の中で筆者が最も的を得ていると感じたのは、台湾積体電路製造(TSMC)の張忠謀(モリス・チャン)董事長による「創新(イノベーション)が強調され過ぎており、経済成長がなければ就業や分配の問題も解決できない」との指摘だ。

 今改めて蔡総統の就任演説を読み返してみると、確かに経済発展を筆頭課題としているものの、「経済構造の転換」を最大の推進目標として挙げている。「5大創新計画」によって新たな経済発展モデルを創造し、台湾の競争力を高めることをうたい上げており、同計画は中部でのスマートマシンシティー推進や、バイオテクノロジーやクリーンエネルギー産業の育成など、時代の要請と台湾の特長を見据えた立派なものだ。

 それでも、それらが形になるのはいつのことなのか。バイオやクリーンエネルギーは十分な雇用を生まない懸念もある。張董事長は「新産業を推進しても、既存産業を忘れれば新産業が成功したとしても従来型産業の衰退を補えない。創新と分配は矛盾する」と語る。すなわち、既存産業を含めた台湾経済全体の振興策にこそ力を入れるよう求めているのだ。

示唆に富むトランプ公約

 こうした中、米国大統領選挙でトランプ氏が当選し、法人税の大型減税や公共投資の拡大、米国への製造業回帰による雇用拡大といった公約が好感されて「トランプ・ラリー」と呼ばれる米国株式市場の大幅上昇が起きたことは蔡総統にとって示唆に富むのではないか。トランプ氏の政策は財政悪化をさらに深刻化させるとみられ、製造業回帰も反自由貿易思想と相まってそううまくいくとは思えないが、少なくとも現時点では企業活動を積極的に支援しようという姿勢が評価されている。

 労働者の権益や環境重視も重要であることは間違いないが、分配する台湾経済のパイをいかに大きくするかに真剣に取り組まない限り、蔡政権と経済界の距離はますます遠くなり、企業の投資意欲にも影響を及ぼしてしまうだろう。蔡総統は今週、経済活性化のための内需振興計画を提出するよう林全行政院長に指示したという。これが分配重視への発想転換の第一歩であることを望みたい。

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