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第89回 国民党、比例名簿で大暴走


ニュース 政治 作成日:2019年11月18日_記事番号:T00086922

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第89回 国民党、比例名簿で大暴走

 野党・国民党が、総統選挙と同時に行われる立法委員選挙の比例代表名簿を巡って見苦しい失態を演じた。統一色の強い人選が批判を呼び、選挙戦の巻き返しをさらに難しくした感がある。

 同党中央常務委員会は先週13日、34人から成る候補者名簿を決定。当選圏内の上位には、葉毓蘭・元中央警察大学教授を筆頭に、呉斯懐・元陸軍中将(4位)、邱毅・元立法委員(8位)らが名前を連ねた。しかし葉氏は10月、香港で反中抗議運動に参加する青年らを「目を血走らせた暴徒」と表現し、物議を醸していた。呉斯懐氏は3年前、北京で開かれた孫文生誕150周年式典での中国国歌斉奏、習近平国家主席の祝辞の際に起立し、非難を浴びた。邱氏に至っては、中国の時事番組で中国による台湾統一を積極的に支持する言論を展開、武力で台湾を脅すことにすら賛意を表明し、広くひんしゅくを買っていた。

 また、候補者の平均年齢は65歳と高く、魅力的な人物が少ないことは党内派閥の利害調整の結果との印象を抱かせた。「史上最悪の名簿」との批判が持ち上がり、同党の若手台北市議らが党本部前で徹夜で座り込み抗議を敢行、副総統候補として韓国瑜高雄市長とペアを組むことが決まった張善政元行政院長は、「比例の投票先には台湾民衆党(柯文哲台北市長が結党)もある。民進党にさえ投票しなければよい」と放言する始末だった。

 批判が噴出したことを受けて、呉敦義同党主席は名簿見直しに着手。葉氏は順位が2位に後退し、邱氏は自ら登載を辞退した。呉斯懐氏は4位のままで変更はされなかったが、これには軍方面からの圧力があったとされる。

/date/2019/11/18/20column1_2.jpg韓国瑜氏(左)と選挙集会で意見交換をする呉敦義主席(右)。韓氏も比例名簿には「民衆の期待と落差がある」と失望感を表明していた(17日=中央社)

自身を安全圏内に

 比例名簿に対するもう一つの批判は、呉主席が自身をノミネート(当初10位)したことだった。自らの当選を図るのは不見識で、若手に当選枠を譲るべきではないかなどの指摘が出て、当落線上とされる14位に変更したものの、11位から15位に順位を落とされた謝龍介台南市議が不満の声を上げた。謝氏は3月の立法委員補選で善戦し、現在は韓氏選対本部の副執行長を務めている。71歳の老人によって安全圏外に移されたことに対し、名簿登載辞退や、来年以降党主席の座に挑戦することを示唆するなど、不満を隠そうともしなかった。

反対票が続出

 国民党は16日、比例代表各候補者の名簿登載の可否について中央委員会で決を採った。この結果、邱氏の代役となった張顕耀・元大陸委員会(陸委会)副主任委員が反対多数で登載を取り消される異例の事態が起きた。189人の中央委員が投票した中、先に触れた呉斯懐氏の反対票が82票に達した他、呉主席自身の58票を含め、実に全体の3分の2に当たる23人の候補者に50票以上の反対票が投じられた。

香港抗争の中での誤断

 比例代表の人選は党の指向性が反映する。年齢層、性別、活躍する分野にバランス良く目配りすれば、党のイメージ向上を図れるチャンスともなるが、国民党は今回逆のことをやってしまった。

 特に香港の反中抗争に対する弾圧に世界の注目が集まり、総統選の流れも民進党に傾いている中で、統一色の強い人物を上位に複数起用したのは最悪の政治センスといえる。とりわけ問題視された邱氏の当初の名簿入りは、連戦・元主席の要求で実現したと伝えられるが、国民党がいかに中国共産党に迎合的であるかが印象付けられた。

 また、投票日まで残り2カ月を切った中で、呉主席が民意をくめないことと、その指導力が信用されていないことが明白になった。呉氏が比例での当選にこだわるのは、立法委員選で多数を取ることを念頭に、立法院長として蔡政権に対抗したいとの思惑からとされる。しかし、それはあくまでも自身の権力欲であり、他の候補の当選可能性を阻む判断は主席として不適切との批判を免れない。今回の迷走ぶりからみるに、同党は立法委員選においても目標の過半数獲得は極めて厳しいと考えざるを得ない。

/date/2019/11/18/20column2_2.jpg与党・民進党は頼清徳前行政院長(左)が副総統候補として蔡英文氏(右)を支えることが決まった。両者が出席した高雄市の選挙集会は大勢の支持者で盛り上がりを見せており、国民党との勢いの差を感じさせた(17日=中央社)

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