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第164回 劉偉杰事件の一審判決


ニュース 法律 作成日:2014年8月27日_記事番号:T00052347

産業時事の法律講座

第164回 劉偉杰事件の一審判決

 2003年、「理律法律事務所」で、顧客から管理を任されていた預金が、当時理律の従業員であった劉偉杰氏に横領されるという事件が発生しました。07年、理律は預金の引き出しを許した世華銀行(現・国泰世華銀行)に対して、9億台湾元の賠償金支払いを求め訴えを起こしましたが、台北地方裁判所は14年8月13日にこの訴えを棄却しました。

 判決の記載によると、引き出された預金は、米サンディスク(中国語名・新帝)が聯華電子(UMC)の株を売却して得た所得で、世華銀行にあったサンディスクの口座に預けられていました。劉氏は03年8月11日から9月17日の間、現金による引き出しと、他行口座への振り込みで合計16回に分けて総額30億元を口座から引き出しました。しかもそのうち1回の振り込みは22億6,000万元と高額で、香港世華銀行のサンディスクの口座に振り込みが行われていました。

 理律は03年10月9日に口座の異常を発見した後、5日間の調査期間を経て、10月14日には銀行へ出向いて口座内容の調査を行いました。劉氏は当日他人名義のパスポートで出境し、香港の口座から2,000万元を引き出し、買い物費用に充てていました。

 判決の記載によると、サンディスク名義の2つの口座は、共に劉氏が勝手に開設したものでした。また、報道によれば、口座内の預金は、劉氏がサンディスクの所有する株を、これまた勝手に売却して得たものであると言われています。サンディスクはUMCの株券の売却を理律に委託しただけで、売却の具体的な指示は出していなかったと報道されていますが、判決ではこの点についての事実認定は行われていません。

現金引き出し、委託範囲内か

 本件民事訴訟において、理律は「劉氏が銀行に対して提出したサンディスクの委託書は、劉氏ら理律の従業員・弁護士が口座を代理開設できることのみを委託しており、劉氏が預金を引き出すことまでは委託されていない」として、「世華銀行はその注意確認を怠った責任を負い、劉氏が引き出した預金金額について、サンディスクに対して賠償責任を負う」と主張しました。しかし裁判所は、「当該委託書は株の売却を委託するためのものであるから、その委託範囲には売却後に銀行から当該売却金額を引き出すことも含まれる」とし、世華銀行の書類審查には何らの過失もなかったと判断しました。

主要株主の株放出、注目されず

 報道によると、サンディスクは当時、UMCの株券を18万3,000枚(1,000株/枚)所有していましたが、理律に売却を委託した後、劉氏によって別の証券会社に持ち込まれ、1株当たり24元前後の金額で12万1,000枚が売却されてしまいました。サンディスクも理律もその事実は後になってから知ったとのことです。この点については判決の記載にも「03年10月14日に理律の責任者が世華銀行の役員を通して支店の支店長と面談した」とあることからも、理律はその事実を知らなかったことは本当でしょう。

 13年のUMCの実質資本額は1,300億元で、03年当時、サンディスクが所有していたUMCの株数をそのまま当てはめると、サンディスクは実にUMCの資本額の1%以上の株を所有していたことになります。つまり当時、サンディスクは「主要株主」名簿に名を連ねることが可能なほどUMCの株を所有していたわけですが、そのような大規模な株の売却を行ったにもかかわらず、そのことで市場が慌てることもなく、またそれによりサンディスクや理律の注意を引くこともありませんでした。

当局からも照会なし

 判決によると、劉氏は03年9月3日に20億元を海外に振り込んだ他にも、1億元を超える引き出しを何度か行っており、その全てが台湾銀行の小切手か、他行への振り込みによるものでした。1億元を超える引き出しは、4億元を引き出したものを含め計3回行われていますが、このような巨額の引き出しは現金による引き渡しではないにせよ、支店からすればかなりの巨額の取引であるにもかかわらず、銀行から理律への照会はありませんでした。また判決によれは、当時の支店長は理律の責任者との面識もありませんでした。

 また、判決によると、03年9月3日に香港の口座に振り込みが行われた20億元については、財政部金融局(現・金融監督管理委員会銀行局)の規定に基づいて申告が行われました。皆さんもご存じの通り、金融局には、海外振込を許可するかしないかといった権限はないかもしれません。しかし、通常であれば、高額の振り込みの際には当事者に対して振り込みの金額や目的などを確認してきます。ところが、この20億元の振り込みが行われてから1カ月が過ぎても、名目上の振り込み人である理律の責任者に対して、そのような問い合わせも照会もありませんでした。

 通常、預金者からすれば、巨額の預金を銀行に預ける場合、たとえそれが1週間であっても、よく知った銀行を選び、利率や手数料などを話し合うのが普通でしょう。一方、銀行からすれば、30億元という金額の預金は支店の運営に大きな影響を与える預金額ですから、その預金期間、利率などの詳細について預金者と積極的に話し合いを行うことで、資金を有効活用しようとするはずです。しかし、本案において、銀行は何らの処置も取りませんでした。これだけの巨額の預金をしているにもかかわらず、何らの特別な要求をしないことを異常とは考えなかったわけです。

銀行の審査が全てか

 裁判所は判決の中で理律の主張の一つ一つに対してそれが採択されない理由を述べていますが、その軸となっている考えは「銀行は法令に則った審査を行ったが何らの異常も発見できなかった」というものです。しかし、前述のように、判決内で討論がされていない問題からも、このような巨額の預金に関する管理には法令に拠るものだけではない管理体制が存在することが分かります。皆さんもこのような方向からこの問題を見直すことで、ご自分の財産管理をどのように強化すべきかをお考えになってみてはいかがでしょうか?

徐宏昇弁護士事務所

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