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第597回 32元の中古鍋を人にあげた場合の法的責任


ニュース 法律 作成日:2025年12月8日_記事番号:T00125754

知っておこう台湾法

第597回 32元の中古鍋を人にあげた場合の法的責任

 先日台湾で、各界の論争を招いた事件が発生しました。台北市政府環境保護局で30年以上清掃職を務めていた黄という名の公務員が、回収車に載っていた中古の電気調理鍋を、くず拾いで生計を立てている近所の老婦人にあげたとして、「汚職処罰条例」の職務上横領罪違反で告発されたというものです。

■人助けと思いきや

 本件の概要は次のとおりです。2024年7月、黄は台北市北投区の北投焼却場横の資源回収ステーションで作業していた時に、市民が捨てた電気調理鍋の外観がまだ良好な状態であることに気が付きました。電気調理鍋を住居に持ち帰って試してみたところ、正常に機能することが確認されたため、翌日の午前中、資源回収を生業とする近所の老婦人に、温かいご飯を食べてほしいとの思いからその電気調理鍋をプレゼントしました。

 しかし、「回収品を着服した者がいる」との噂が清掃チーム内で広まり、主管者が監視カメラの映像を取り寄せて調べたところ、黄が浮かび上がりました。

 黄は、老婦人から取り戻すのは忍びなかったため、自腹で新しい電気調理鍋を購入して老婦人の手元の中古品と交換し、当該中古品を環境保護局に返却しました。

■廃棄物の横領

 見積もりでは、当該電気調理鍋は32.56台湾元の価値しかなかったものの、環境保護局の「環境清掃の公務における心得」には、回収品は車両に積載された時点で市政府が管理する財物となり、清掃職員は勝手に占有、または処分してはならないとの規定があります。

 士林地方検察署の検察官は、黄が「汚職処罰条例」第6条第1項第3号の職務上横領罪(以下に掲げるいずれかの行為をなした場合は、5年以上の有期懲役に処するものとし、3000万元以下の罰金を併科することができる。…三、職務上所持する非公用の私有器材・財物を窃取または横領したとき)に該当すると認定して黄を起訴しました。

 士林地方裁判所は本件を受理した後、25年12月2日に、黄の有罪を認定し、2年の執行猶予付きで3月の懲役に処し、かつ公民権を1年間剥奪するとの一審判決を下しました。

■悪質性低く減刑に

 裁判所は、公務の清廉潔白を保つため公務員は価値が極めて低い財物であっても、それを勝手に取得してはならない、ということを強調しました。

 しかし裁判所は同時に、本件の動機は善良で悪質性がわずかであること、黄が自首しており、違法所得はなく、金額が極めて少額であること、また、公共部門の財産に対し重大な影響がないことを認めて続けざまに減刑規定を適用し、さらに刑法第59条に基づき、事情を斟酌して最も軽いレベルまで刑を軽減するとともに、刑の執行を猶予しました。

■市民の声で法改正検討

 本件が明るみに出た後、各界から非常に大きな反応がありました。多くの市民は、本件の電気調理鍋はたった32元なのに、汚職という重罪で処分されたことは明らかに不合理であると疑問を抱きました。

 法務部は、今後の処分方法がより比例原則に適合したものになるよう、小額の犯罪行為に対してはその刑を軽減、ひいては免除することを含めた柔軟な対応をするか、または起訴猶予の適用を拡大するための法改正の手続きを、すでに開始していることを公にしています。

蘇逸修弁護士

蘇逸修弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、法務部調査局に入局。板橋地方検察署で、検事として犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などの業務を歴任。2011年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

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