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第625回 店員がラテ1杯を盗み飲み


ニュース 法律 作成日:2026年7月13日_記事番号:T00129562

知っておこう台湾法

第625回 店員がラテ1杯を盗み飲み

 最近、台湾で社会的に大きな議論を呼んでいる刑事事件があります。2025年5月の深夜シフト中、徐というコンビニ店員が、店内で75台湾元(約380円)のラテ1杯を飲み、すぐに会計しなかったとして、雇用主から業務上横領罪の疑いで刑事告訴されたというものです。

 事件は士林地方検察署に起訴された後、第一審の士林地方裁判所で有罪判決が下されました。同店員が控訴した結果、第二審の高等裁判所が26年7月初めに同店員を無罪とする逆転判決を下すと同時に、判決理由の中で雇用主、検察官および第一審裁判所に対して異例とも言える厳しい批判を展開し、法曹界をはじめ各界の注目を集めています。

■会計忘れは横領か

 士林地方検察署の起訴状によると、コンビニ店員の徐氏は25年5月17日午前4時、業務上保管している店内の飲料材料を無断で使用して販売価格75元のラテを作り、会計せずに飲用しました。このことについて、陳店長が監視カメラの映像を確認して警察に通報しました。

 徐氏は「その時は極度の疲労で体力が限界に達しており、コーヒーを淹れたものの会計するのを忘れてしまった。それは作業ミスであり悪意のある横領ではない。そもそも監視カメラの前で淹れており、犯意があれば監視カメラに映らないようにするはずだ」と抗弁しました。

 士林地方裁判所は監視カメラの映像を確認した上で、徐氏のコーヒーを淹れる時の動作がスムーズかつ自然で整然としており、精神状態が朦朧としているようには見えないとして、徐氏の業務上横領罪成立を認定し、懲役3月(約9万元の罰金刑への代替が可能)の判決を下しました。

 徐氏は控訴し、第二審の高等裁判所は審理の結果、刑法上の業務上横領罪は故意犯であり、被告人が他人の財物を自己の所有にしようとする不法領得の意思を有していたことを証明する必要があり、単なるミスによってもたらされた結果は処罰されないと判断しました。

 本件において、徐氏は長時間の連続勤務により精神や注意力に明らかな影響を受けていました。しかも、彼女には事前に購入済みでまだ引き換えていないキープしているコーヒーが大量に残っていたことから75元の飲料を横領する不法な動機に欠けることは明らかでした。

 さらに高等裁判所は、心理学や神経科学の理論を引用し、「コーヒーを淹れる」という行為は、熟練すれば認知資源をほとんど消費しない手続き記憶に該当するため、疲労状態にあってもスムーズに動作を完了できる可能性があると指摘しました。これに対し、「会計する」という行為は追加の注意力と実行機能の関与を必要とするため、疲労や作業の中断によって抜け落ちてしまう可能性が極めて高いと指摘しました。第一審が、監視カメラの映像でコーヒーを淹れる動作がスムーズであったことのみを理由に、被告人の精神状態は正常で横領の故意があったと推論したのは科学的根拠を欠く飛躍した推論であり、犯罪の故意を認定する十分な証拠にはなり得ないとして、逆転無罪としました。

■コンビニ店員に同情

 また、高等裁判所の裁判官は判決の中で関係者に対し、異例とも言える厳しい批判を行いました。24時間営業がもたらす莫大な経済的利益を享受しながら、過酷な労働を第一線の店員に転嫁しているコンビニ業者が、適切な休憩環境や人員配置を提供しないまま、作業ミスが発生した際に刑事告訴を管理ツールとして選択したことは、国家の刑事司法制度を道具化し、労働者に対する脅迫や報復のために利用したも同然であると判断しました。また、判決では、検察官は有罪という結果を過度に追求し、犯罪の故意の有無を十分に検証していないと批判しました。同時に、第一審裁判所についても、末端の労働現場に対する理解や共感が欠如しており、労働環境全体や人間性の観点から総合的に証拠を判断することができなかったため、実情に合わない有罪判決を下すに至ったと判断しました。

 台湾では、街の至る所にあるコンビニはすでに人々の日常生活に不可欠な一部となっており、コンビニ店員の仕事量が多く高度に複雑な業務内容も広く社会に知られているため、本件の第二審の判決は多くの市民から支持を得ています。この判決は、今後の類似事件において犯罪の故意をどのように認定するか、また、企業が従業員の作業ミスをどのように取り扱うかという点で、重要な参考価値を有しています。

蘇逸修弁護士

蘇逸修弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、法務部調査局に入局。板橋地方検察署で、検事として犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などの業務を歴任。2011年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

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