ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第171回 雅新実業の不正経理事件


ニュース 法律 作成日:2015年1月14日_記事番号:T00054869

産業時事の法律講座

第171回 雅新実業の不正経理事件

 2014年は台湾の多くの上場、店頭公開企業で不正経理が発覚した年でした。これらの企業は資産着服の疑惑を持たれており、台湾の上場、店頭公開企業の経営管理体制に対して、産業界や投資家が疑問を感じざるを得ませんでした。

 13年8月、台北市の士林地方裁判所は、06年に発生したプリント基板(PCB)メーカー、雅新実業の不正経理事件についての第一審判決を下しました。この判決からは、台湾の裁判所が会社の経営に関するさまざまな問題をどのように認識しているのかを知ることができます。

売上高の半分を水増しか

 検察は、雅新実業が06年に業績が落ち込んだ際、架空の業績を計上した一方、コストを水増しし、また本社に計上するべき売掛金を子会社に計上することで、架空の業績を会計上合理的に処理したことを理由として、雅新実業の黄恒俊董事長とその配偶者らを起訴しました。裁判所は、当年度に計上された売上高379億2,000万台湾元のうち186億4,000万元について、被告らが「子会社の売上高を事前に計上する」手法によって水増ししたものであると判断し、黄董事長に懲役7年6月、配偶者の莊宝玉被告には懲役9年の判決を下しました。また、犯罪所得1億6,000万元を没収とした他、葉壬侑財務協理に懲役4年、蘇嘉斌広報担当には懲役1年10月、執行猶予5年の判決、その他の被告についても多くは執行猶予を言い渡しました。

 判決の中で裁判所は、董事長夫婦が犯行に及んだ動機を以下のように判断しています:

 2人は「30年余りに及ぶ経営の中で、業績は右肩上がりで、企業に対する感情も芽生えていた」。そんな中、もし06年の売上高が前年の半分になった事実を申告すれば、「雅新実業の株価、企業運営、そして2人が長年にわたって築き上げてきた信用」に影響を与えることは必至だったため、「財務調整という形で難を乗り切り、株価を維持し、企業の業務運営を順調に進めることを選択した」。

 また判決は▽莊宝玉被告が海外企業を利用して雅新実業株の売買を行ったこと▽本案が発覚する以前に同社株を大量に売り払い、「その資金を雅新実業に注入することで財務上の危機を乗り越えようとした」こと▽莊宝玉被告は結果として5億5,000万元を得、そのうち不当利得は1億6,000万元に達したこと──を認定しました。さらに、董事長にはインサイダー取引を行う動機と、実際に利益を獲得する方法があったが、実際にインサイダー取引に関与したことを証明する証拠がないため、インサイダー取引については無罪と判断しました。

 雅新実業が売上高を偽った後に、コストを水増しした一方で入金金額をごまかしたという行為については、あくまでも「技術的かつ細部の簿記処理の問題」であるため、董事長夫婦は関与していないとしました。

「あくまで帳簿処理の問題」

 本案における被告代理人の最も重要な答弁は、「雅新グループの当年の売上高は444億元に上った。裁判所が認定した水増し分はあくまでも帳簿処理の問題で、実際の金額については偽りはない」というものでしょう。しかし裁判所は、「親会社と子会社の売上高は、法律上、会計上、常識、現実のいずれの面から見ても混交すべきものではない」とし、その主張を採択しませんでした。

 また、雅新実業の公認会計士については、「財務報告は雅新実業の財務部門より提供された偽りの財務資料に基づいて作成されたもの」であり、「管理職らの不正により、偽りのある財務報告となった」とし、会計士に不法行為はなかったことをにおわせています。

 この他、検察は被告らが偽の業績を基に銀行をだまし、不当に融資を受けたことも訴えていました。しかし裁判所は、銀行は06年以前の段階で、既に共同融資を行うことを決定していたため、売上高を水増しして作成された財務報告と共同融資決定とは何の関係もなく、また後に作成された財務報告と、銀行からの共同融資決定とも何の関係もないと判断しました。

 黄董事長らは親戚らの名義で景新公司という企業を設立し、雅新実業の製品を販売していました。検察官は、雅新実業が景新に対して、▽180日間もの支払期限を設定していた▽販売価格を設定した後、景新からの値下げ要求には異なる内部プロセスを通じて応じていた▽景新が必ず利益を得られることを承諾していた▽亀山工場(桃園市)を景新の倉庫として提供していたことから、被告らが「通常ではない取引」を行っていた疑いがあること──を理由として、起訴しました。これに対して裁判所は、▽景新以外の雅新実業の顧客はどれも国際的に名を知られた企業であり、取引条件が景新と異なるのは当然▽さらに「景新と協力して製品を販売することは、売上高増につながるだけでなく、自社ブランド『VITO』の付加価値を高めることにもつながる」──とし、前述のような特別待遇がそのまま通常ではない取引とはならないと判断しました。

「高尚な目的」との見方

 本案は上訴され、現在台湾高等裁判所で審理中です。しかし一審の判決からみる限り、裁判所は被告らは高尚な目的により不正経理を行い、しかも不当な利益は得ていないとみているようです。

 もし今後、雅新グループの06年の業績が本当に444億元で、またそれが親会社である雅新実業に属するものであることが証明できれば、被告らは不当な意図がなかったことを証明できるばかりか、「検察らが捜査を行ったことが原因で経営が傾き、上場を取り消された被害者だ」と主張することも可能となるでしょう。

徐宏昇弁護士事務所

TEL:02-2393-5620 
FAX:02-2321-3280
MAIL:hubert@hiteklaw.tw  

産業時事の法律講座