ニュース 法律 作成日:2015年2月11日_記事番号:T00055426
産業時事の法律講座呉文義氏はIC設計最大手、聯発科技(メディアテック)で1997年の創業当時より勤務しているベテラン職員です。呉氏は06年7月以降、法務兼知的財産権処長などを歴任、08年10月には総経理室技術処長を担当しました。
会社から個人アドレスにメール
さて、当時メディアテックは、監査の過程で呉氏が不審なメールを送信していることを発見。傍受・閲覧を行った結果、呉氏は個人のメールアドレスに会社の機密資料を送信していたことが分かりました。その後、呉氏から事情を聞いたところ、▽呉氏は政治大学研究所(大学院)に就学していたこと▽会社の資料を修士論文に引用するつもりであったこと──が判明。メディアテックは呉氏と論文指導教授に対して、企業秘密を漏えいしない旨の誓約書にサインするよう求めました。しかし、呉氏はこれを拒否したため、メディアテックは呉氏を即時解雇しました。
呉氏は新竹地方裁判所に対して「雇用関係が存在すること」の確認訴訟を提起する一方、復職するまでの給与として1月当たり19万5,000台湾元、および従業員持ち株として5,000株の給付も求めました。新竹地方裁判所は12年10月、双方の雇用関係は存在しているとの判決を下し、メディアテックに1月当たり16万7,000元の給与を支払うよう命じましたが、株に関しては呉氏の訴えを退けました。この判決に対して双方ともに控訴しましたが、台灣高等裁判所は双方の訴えを退けました。メディアテックは雇用関係確認に関する部分については控訴を行わなかったため、呉氏は12年11月からメディアテックに復職しました。
「企業に情報保護の必要あり」
また、呉氏は、メディアテックがプライバシーを侵害したことを理由に別途民事訴訟を提起し、200万元の賠償を要求しましたが、新竹地方裁判所は12年1月に呉氏の訴えを退けました。同裁判所の判断は以下のようなものです:
監査を行った劉錫麟氏が、呉氏のメールをチェックした過程としては、毎週月曜日午前に行われている定例監査において、会社のメールシステムに「Confidential A」(機密 A)、「Confidential B」、「Internal Use」(内部利用)などのキーワードを入力した結果、原告(呉氏)が個人のメールアドレスにメールを送信したことを発見した。そのような状況は、メディアテックが監査対象として規定する「不審なメールアドレスへの送信」に該当する。また、システムによるフィルタリングの結果、「Internal Use」などのキーワードが含まれていることも、同様に「不審送信」に当たる。
メディアテックの「知的財産権データ管理規範」によると、監査機関には社員のメールを監視する権限が付与されている。そのため、監査の結果、情報の漏えいが発見されなかったとしても、監査そのものの正当性が否定されるわけではない、
憲法が保障している人身の自由および各自由権は、他者の自由を妨げることの防止、緊急危機の回避、社会秩序の維持、または公共の利益の増進のために必要な場合、それを制限することができる。メディアテックはハイテク企業であり、その競争力と営業利益の維持のため、技術、人事、顧客資料、産業分析などのデータに対して、適度な保護を加える必要がある。そのため、メディアテックが「知的財産権データ管理規範」を制定し、社員のメールを監査する行為は、必要な程度を超えたものではない。
プライバシー侵害に相当せず
呉氏はこの判決を不服として控訴し、▽メールには「Confidential A」、「Confidential B」、「Internal Use」などのキーワードは含まれていなかった▽そのため、メールは監査の際に個人のプライバシーを侵害する方式で傍受、閲覧された──と主張しましたが、台湾高等裁判所は以下のような判断を下しました:
企業が社員のメールを監査する行為が社員のプライバシーを侵害しているかどうかは、監査という行為が企業の秩序の維持権、財産設備管理権に基づいたものであるかどうか、および社員が企業におけるメール通信のプライバシーについて合理的な期待を持てるかどうかにより判断される。
企業が社員のメールの監査政策を既に明確に宣言、告示している場合、被害者側が、企業のメール監査は企業利益の維持の目的のためではなく、被害者の人間としての尊厳を恣意(しい)的に侵害するもので、バランスに欠き、不法性が認められることを証明し得る場合を除き、それを不法行為と認定することはできない。
メディアテックは国際的にも著名なハイテク企業であり、その人材、技術ともに企業の重要な資産である。競合他者による悪質な引き抜きを避けるため、呉氏のメールを監査することは、企業の利益を維持するために必要な行為である。また監査により維持される企業の利益は、修士論文を書くという個人的な理由により監査を受け、プライバシーが侵害されたことで呉氏が得た不利益に優るものであることは明白である。
また、メディアテックの監査機関が、あるメールを監査したことでその異常を発見した後に、呉氏の他のメールも傍受・閲覧したことは、バランスを欠かず、その違法性は否定される。
ポイントは監査政策の事前告知
呉氏は高等裁判所の判決を不服とし、最高裁判所に上告を行いましたが、13年5月、最高裁判所は訴えを退け、判決は確定しました。最高裁判所は以下のように認定しました:
企業が社員のメールの監査政策を明確に宣言・告示している場合、社員は会社の設備を使用してメールをやりとりする際に、会社に見られることはないとのプライバシー保護を期待することはそもそもできないため、その行為がプライバシー、言論の自由、通信の秘密に関する権利を侵害しているとは認められない。
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