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第172回 アプライドとチュソンの特許訴訟に幕


ニュース 法律 作成日:2015年1月28日_記事番号:T00055148

産業時事の法律講座

第172回 アプライドとチュソンの特許訴訟に幕

 米国企業Applied Materials,Inc.(アプライド・マテリアルズ:以下「アプライド」)と、韓国企業Jusung Engineering CO., Ltd(チュソン・エンジニアリング:以下「チュソン」)の間で争われていたプラズマCVD(PECVD)に関する特許訴訟が、2014年12月3日の最高裁判所の判決でようやくその長い闘いに終止符を打ちました。

 本案は、アプライドが02年3月に台湾発明特許第152996号として取得したLCDの製造に対して応用可能な「プラズマ発生装置内に湾曲して固定することができる気体分散モジュール」特許に関する争いです。

 03年12月24日、アプライドは「チュソンが輸入する型番EUREKA 6000のPECVD設備は桃園国際空港に運び込まれ、台湾のメーカーに販売され、LCDの製造に用いられようとしている。当該設備は特許152996号を侵害するものであるため、裁判所に対して、チュソンが当該設備の製造・販売・輸出・輸入・受け渡し、または販売促進を行ってはならず、また設置・設定・計測・技術指導・操作訓練、または整備などのサービスも行ってはならないという内容の裁定を下すよう求める」という主張により、桃園地方裁判所に対して暫定状態仮処分を申請、桃園地裁はこの主張を認めました。これに対してチュソンは、担保を提供することでこの仮処分の取り消しを要求、桃園地裁はこの要求も認め、チュソンに対して1,300万台湾元の担保の提供を命じ、仮処分を取り消しました。

訴訟の応酬に

 04年6月30日、アプライドは本案訴訟を提起、チュソンによる当該設備の製造・販売禁止と1億7,820万元の損害賠償を求めました。これに対してチュソンは06年10月30日に反訴を提起し、アプライドは当該特許は無効であることを知りながら、それを名義とした仮処分を申請したため、当該設備を台湾で販売することが全く不可能になったと主張、1,000万元の損害賠償と、新聞への判決要旨掲載を要求しました。

 04年1月、チュソンは「アプライドが特許が無効であることを知りながらそれを根拠とした仮処分申請を行ったことは公平取引法違反である」として、公平交易委員会に対してアプライドを告発しました。これに対して公平交易委は05年4月、「告発不成立」という処分を下しました。この処分はその後、チュソンの上訴を受けた後、09年に最高行政裁判所の判決を経て確定しました。

 また、チュソンは知的財産局に対しても、特許無効審判を提起していましたが、知的財産局はアプライドの請求項の補正申請を認めた後、07年7月に特許無効審判を不成立としました。この処分はその後、チュソンの上訴を受けた後、10年9月に最高行政裁に上告を却下され確定しました。

 一方、本案訴訟については、10年12月31日に新竹地裁が双方の訴えを退ける判決を下した後、13年7月31日には知的財産裁も双方の訴えを退けました。その後、チュソン側のみが上告、14年12月3日に最高裁の上告棄却の判断を受けて確定しました。

 本案において、チュソンは以下のような根拠によりアプライドの特許権乱用を主張しました:

「特許無効を知っていた」と主張

1)本件特許は特許無効審判を提起された後に、アプライドにより3度の請求項の補正が行われた。また、チュソンが侵害したとアプライドが主張していた請求項の一部が、請求項補正の際に削除されている。このことからもアプライドが当該請求項が無効である特許であったことを初めから知っていたことが分かる。

2)アプライドが仮処分を申請する際に提出した交通大学科法所の鑑定報告書は、添付書類2の図1以外、侵害製品の技術内容を説明する資料がなく、また、当該図式についても、設備各部のスケールや湾曲の有無などを文字で説明しているものではない。

 しかし、知的財産裁は判決の中で以下のような判断をしました:

1)本件特許は、その仮処分が申請された当時は、取り消されていない有効な特許権であった。そのため、アプライドは特許権者の地位に基づき、特許権法により付与された権利を行使したにすぎない。従って、それが訴訟の提起、または非訟、保全などであるかを問わず、どれも正当な権利の行使であり、それを公平取引法違反と認めることはできない。

2)アプライドは、チュソンの製品が、「削除されていない請求項」も含む本件特許の請求項を侵害したと主張した。交通大学の鑑定報告書は、これらの「削除されていない請求項」について「全く比較検証していないわけではない」と指摘している。また、鑑定報告は取得した資料に対して比較検証した結果であり、「明らかな誤り」がある点は認められない。そのため、アプライドが内容に明らかな誤りがある鑑定報告書を引用して仮処分の申請の根拠としたということについてもその事実を認めることはできない。

チュソンの設備、販売されず

 解決まで11年の年月をかけた本案は、表面上の結果としては双方の上告が退けられたという形で終結しましたが、事実上、チュソンの設備は台湾で販売されることなく「死産」してしまったわけです。また、最高裁が引用した知的財産裁の認定によると、本件仮処分の根拠とされた鑑定報告書は「参考資料不足、または全ての請求項に対して比較検証を行っていない」とされていますが、一方で、このような瑕疵(かし)は単に「内容は不十分だが、その内容に明らかな誤りがあるとまでは言えない」とも認定されています。それにしても、裁判所がこのような鑑定報告書を根拠に仮処分の決定を行ったことについては、何らのミスもなかったと言えるのでしょうか?

徐宏昇弁護士事務所

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