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第175回 原住民族伝統智慧創作保護条例


ニュース 法律 作成日:2015年3月11日_記事番号:T00055804

産業時事の法律講座

第175回 原住民族伝統智慧創作保護条例

 2007年末、原住民族の伝統的な知識と創作(智慧創作)を保護し、原住民族の文化の発展を促進するため「原住民族伝統智慧創作保護条例(以下「本法」)」が公布・施行されました。そしてその後の準備と実験を経た今年1月、原住民族委員会は「原住民族伝統智慧創作保護実施弁法(以下「本施行法」)」を公布、3月1日に施行されました。

 本法の規定では、原住民族の智慧創作は審査・登録後、著作権と類似した効力を持つ「智慧創作専用権」があるとされています。この権利の専用権は「特定の民族・部落または全ての原住民族の名義」で、権利者は「当該智慧創作の使用と収益」を専用できるという財産権と、以下の「智慧創作人格権」を持っています。

1.智慧創作の公開・発表を専用する権利
2.智慧創作の権利者の名称表示を専用する権利
3.他者が歪曲(わいきょく)・部分取りまたはその他の方法で、智慧創作の内容・形式または名目を改変することで、(権利者が)名誉上の損害を被ることを禁止する権利

 このような権利の下、権利者は原住民族の伝統的な智慧創作を他者に授権することで利益を得ることができます。

 この智慧創作の専用権は、原住民の特定の民族・部落または全ての原住民族に属するもので、他者への譲与・質権の設定・強制執行などを行うことはできず、また権利者も権利を放棄することができません。もし放棄した場合、その権利は消滅するのではなく、「全ての原住民族」に属すことになります。ただし、条例の規定によると、専用権は「専属授権」により他者に対して事実上の譲与を行うことができることになっています。

 また、原住民としての身分さえあれば、自らの属する原住民族・部落または全ての現有民族の智慧創作を使用し、収益を得ることができます。そしてこのような場合には授権は必要なく、また論理上は権利金を支払う必要もありません。

伝統的な智慧創作とは?

 では「原住民族の伝統的な智慧創作」とは何なのでしょうか?本法中には「原住民族伝統の宗教祭儀、音楽、舞踏、歌曲、彫刻、織物、図案、服飾、民俗技芸」と各種形態が列挙された他、「その他文化的成果の表現」と定義されています。その上で本施行法には以下のような審査基準が示されています。

1.属する原住民族または部落の個性・特徴が十分に表現されていて、当該原住民族または部落の環境・文化・社会特質性と相当程度の関連性があり、かつ当該コミュニティーを代表できるだけの特性がある。

2.代々受け継がれてきた歴史性があり、かつ申請時に当該原住民族または部落が、その智慧創作に対する管理・利用能力がある。ただし、「代々受け継がれてきた」とは時間的長さが必要なわけではない。また「成果の表現」に関しても普遍・固定の内容が必要なわけではない。

3.客観的な形式で表現されていなければならない。ただし、特定の物質または材料に固定されていることは求められない。

 本法の規定から見る限り、この登録審査は委員会が審査を行った後に、原住民委員会が最終的な決定を下すというもので、審査委員会の半数は原住民族でなければなりませんが、民俗学者が参与しなければならないという規定はありません。このことからも、登録開始後、その審査結果はかなり雑なものになることでしょう。

 審査を通過した智慧創作は、登録・公告され、専用権を得ます。ただし、本法には第三者が異議を唱える、またはそもそもの資格に合っていなかったことを理由とした資格取り消しについては何ら規定は設けられていません。しかし、行政法の一般原則からすると、異議の提起または取り消しの請求は可能であると考えられます、特に利害関係のある第三者からのものであればなおさらです。

 権利範囲の認定について、本法は「智慧創作の特徴・範囲および使用規則は、智慧創作登記簿の智慧創作説明によるものとする」との規定を設けており、権利登記簿に「智慧創作の特徴・範囲および使用規則」が記載されることが分かります。しかし、実際の権利範囲は将来、本案件の管轄裁判所である智慧財産法院(知的財産裁判所)により認定されることでしょう。

慎重な事前調査必須に

 原住民族の伝統文化が台湾文化の重要な特色の一つとなってからというもの、多くの文芸創作、商業、政治的なものまで、こぞって台湾原住民族文化の要素を取り入れるようになりました。しかし、原住民族の伝統智慧創作の登録が始まると、これらの文化的要素を利用したいビジネス関係者たちは、利用に際して慎重な事前調査を行わなければならなくなるでしょう。その際にはまず弁護士の法律意見、または権利者の授権を受けることで、それらを合法的に利用する権利を得られることでしょう。

徐宏昇弁護士事務所

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