台湾企業が材料に侵攻、ポリイミドは戦国時代に


2011年1月11日15:30  リサーチ 経営 台湾事情

台湾企業が材料に侵攻、ポリイミドは戦国時代に

記事番号:T00027662

 電子材料分野ならば日本や米国の企業が圧倒的に強い。そんな常識が今、過去のものになり始めた。台湾と韓国で急速に成長するメーカーが登場したからだ。それらのメーカーは柔らかく屈曲するプリント基板(Flexible Printed Circuit, FPC)を構成する主要材料であるポリイミド・フィルム(PI)を手掛けている。莫大な消費量を誇る台湾のFPC関連メーカーへの食い込みによって、台湾と韓国のメーカーはこれまで市場を寡占していた日米のメーカーを急速に追い上げている。彼らの成長は市場をどう変えていくのか、見てみよう。

フレキの値段を左右

 PIは、FPCとその主要部材であるFCCL(Flexible Copper Clad Laminates)の原価を大きく左右する。例えば、FCCLのコスト構成比率を見ると、PIが半分を占めている(残る50%は銅箔(はく)が35%、製造費用が10%、人件費が5%)。このようにPIのメーカーにとって“いい商売”ができている背景には、技術的な参入障壁が高いことがある。PIの供給メーカー数は長らく実質的に日米の3社に限られていた。PIが実用化されたのは1965年、米国のデュポン社がポリイミドフィルム「カプトン」を発売したのが最初である。その後日本のカネカと宇部興産が参入したものの、後が続かなかった。現在でも世界生産量の80%はデュポン、カネカと宇部興産が占めている(図1)。

 PIが売り手優位の市場だったことは、過去の需給ギャップによく表れている。工業技術研究院によると、2003年のPI総生産量は4,600トン(1milの厚みで計算)で、市場需要量と15%のギャップがあった。現在は、韓国と台湾からそれぞれ1社が参入を果たした上、04年にデュポン社とカネカが生産ラインを増設したため、需給ギャップは当時よりも緩和している。10年のPI生産量は8,700トンと見込まれている。

生き残りをかけた戦いへ

 日米のPIメーカーにとって、台湾や韓国のメーカーの参入は決して軽く見ることができない。PI市場自体の成長がほぼ止まったからだ。工研院によると、10〜12年はスマートフォンや電子書籍端末など向けの需要急増によって生産量自体は小幅の成長が期待されるものの、キロ単価が安くなっている。(図2)。キロ単価は03年では140米ドル/キロだったが、10年の時点では116米ドル/キロに下がった。

 

 こうした中、日米のPIメーカーは PIの用途をFPCから電気自動車や太陽電池などに広げようとしている(表1)。しかし、それが成功したとしても、韓国や台湾のPIメーカーの追撃をはばむことは決して容易ではないだろう。既に世界の電子製品の70%が日本以外のアジア地域で生産されているためだ。半導体メモリーや液晶パネルの歴史がそうだったように、低い設計・製造コストと顧客との深い人間関係を武器に、台湾や韓国のメーカーが成長していく可能性が高い。

 

 このうち韓国のPIメーカーであるSKCコーロンPIは、09年に大手プリント基板メーカーである日本のNOKに対してPIフィルムの供給を始めた。NOKに採用されたことは、SKCコーロンPIの技術力がそれだけ向上したことを意味している。10年7月に同社は生産能力を年産1,500万トンに増やした。12年には2,700万トンにする予定だ。

 一方、台湾唯一のPIメーカーである達邁科技(タイマイド・テクノロジー)も、良品率の向上と規模の経済の達成によって昨年、爆発的な成長を実現した。 企業規模はまだ日米のPIメーカーよりかなり小さいものの、「iPhone」に向けた受注を得ているなど、成長軌道に乗っている。同社が発展した背景や今後の動向を見ていこう。

材料の自給自足を目指す

 タイマイド社は、米デュポン社による買収がきっかけで生まれた企業である。タイマイド社の総経理である呉声昌氏は、かつて太巨科技という台湾の PIメーカーの総経理だった。その太巨科技が2000年に買収されたことで、呉総経理は「台湾のFPC産業は材料面で自立しなければならない」という思い を一層強くし、同年に自らタイマイド社を立ち上げた。タイマイドという英語社名は「Taiwan」と「Polyimide」に由来している。

 野心を持って創業したものの、呉総経理とタイマイド社が経験した苦労は並大抵ではなかった。09年に至るまでほとんど利益を出せなかったのだ。黒字転換は、事業規模の拡大と粗利益率が高い黒色PI(通常は黄色)の量産によって実現した。

 タイマイド社は、10年にFCCLメーカーからの発注拡大と80%を超える良品率によって営業利益率を大幅に向上させた。具体的には、09年に 2.2%だった同利益率が10年上半期に28.6%に跳ね上がった(図1、図2)。こうした採算性の向上は、円高による発注移転に後押しされた面もある。 なおタイマイド社のPIは、80%がFPC用で、20%が絶縁材向けである。

 タイマイド社は10年9月に株式公開を実現した。これによって得た資金で、さらなる成長を目指している。世界シェアから見ると最下位にとどまっているものの、台湾FPC産業の自給自足という呉総経理の目標に向かって確実に進んでいると言える。

カラーPIで差異化

 前述の黒色PIは、iPhoneなどのスマートフォンが内蔵するFPCのカバーレイに使われている。タイマイド社によると、これはユーザー企業からの強い要望に応えて開発したもので、量産している企業はタイマイド社以外はデュポン社しかない。黒色PIの売上高はまだ全社売上高の5%にとどまるが、 スマートフォン市場の将来性への期待から「主力製品にしたい」と同社の幹部は語る。

 タイマイド社は、黒色PIのほかにも、LEDバックライトモジュールライトバー用白色PIや透明PI、赤色PI、青色PIを開発済みである(図3)。台湾デュポンの一部社員は「(実需が乏しいので)単なる宣伝役にすぎない」と冷笑するものの、顧客候補の反応は決して悪くない。ある日本のFCCL メーカーのマーケティング担当者は「青いPIなんて初めて聞いた。どんな用途を開拓できるか考えてみたい」と話す。カラーPIを開発する狙いをタイマイド 社の呉総経理に聞くと「地味で退屈な電子材料を、芸術品や化粧品のように、もっと楽しくカッコよくオシャレにする。それが僕の夢だ」と語った。

矢継ぎ早に増産

 タイマイド社の現在の月産能力は15万㎡である。苗栗県で生産ラインの増設を始めており、11年第4四半期から量産に着手する予定。これにより生 産能力は1.3倍に拡大する。黒色PI専用の生産ラインも増設する。さらに14年には月産能力を400万㎡に拡大する予定だ。同社のマーケティング部協理 は「デュポンとカネカは老化し、競争力がどんどんなくなる。これからは市場シェアを奪うチャンス」と強気だ。

 台湾と韓国のメーカーの成長によってFPC向けPIでは今後、価格競争が激化するだろう。遠くない将来「FPC分野のハイエンド品に特化する」といった経営方針を打ち出す日本や米国の企業が出てきても不思議はない。しかし、こうした消極策が良い結末をもたらさないことは、半導体メモリーなどの歴史で明らかだ。加えてタイマイド社は、日米の出鼻をくじくべくCIGS型太陽電池向けPIも少量ながら量産している。

 先進国のメーカーの経営は「低価格品を攻められるように技術と体制を見直し続けることとほぼイコール」(日本の精密機器メーカー幹部)である。日米メーカーは、この原点に立ち返って思い切った策を採る必要がありそうだ。 

 

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