米国発の金融危機によって世界同時不況への突入が取りざたされる中、鴻海精密工業は6日、株価が2001年9月以来7年ぶりに100台湾元(約310円)を割った。この非常事態を受けて郭台銘同社董事長は、今年上半期に表明していた第一線からの引退を撤回し、再び陣頭指揮を執ることを宣言した。また、難局を乗り切るため、年内に10~15%の大幅な人員削減を実施する可能性も示唆した。7日付経済日報などが報じた。
プライベートでは再婚で第2の幸せをつかんだ郭董事長だが、経営では悩みも多く、本当に引退できるのはまだまだ先のようだ(中央社)
「復帰」宣言で信頼感回復
郭董事長は今年2月の春節(旧正月)忘年会で、4月から第一線を退いて、権限を徐々に若手に委譲していくという考えを表明していた。しかし、鴻海集団は今年上半期の利益が前年同期比で13.8%減少し、郭董事長の引退によるリーダー不在の懸念が生じたこともあって、同社の株価は3月末の187元から今月6日までに約47%近く下落した。市場価値にして6,524億元が蒸発してしまったことになる。
ただ、外資系証券会社では、郭董事長の引退は名ばかりで経営体制に変化は起きていないとみており、今回の「復帰」宣言はグループの士気を高めること、および市場の信頼感回復が目的と分析している。
年間目標達成を危ぶむ声も
鴻海の最近の業績は、7月の売上高が前年同月比34.93%増、8月は同43.05%増と目標の30%を上回る成長を見せており、9月も1,500億元を突破して過去最高の売上高を記録し、下半期は好調を持続するとみられていた。
しかし6日、鴻海がアップルから受託するiPhoneの出荷台数が、9月は当初予測を10~15%下回り、第4四半期900万台の目標も650万~700万台に下方修正される可能性があるという香港カリヨン証券(CLSA)の観測が報道された。世界的な景気低迷を受けコンシューマ向け電子製品の需要が落ち込む中、鴻海集団に対しても、今年は年間売上高および利益の30%成長という目標の達成を危ぶむ声も聞こえている。
10~15%削減で数万人に影響
郭董事長は3日と4日に行われた世界幹部会議で傘下事業体に対し、「在庫および売掛金の点検、有効利用されていない資産などの改善を積極的に進める」と語り、「景気がさらに悪化すれば」と前提条件を付けた上で、年内に10~15%の人員削減を実施すると語った。
郭董事長は春節の忘年会では、「従業員の能力を毎年評価し、年に5%を淘汰(とうた)する」と発言していたが、今回示されたのはその2倍以上に当たる数字で、全世界に約60万人の従業員を抱える同グループでは、削減が実行された場合、数万人に影響が出ることになる。
鴻海の丁祈安スポークスパーソンは、「労働力は経営効率に直結しており、調整は正常なこと」と語ったが、削減幅についてはコメントを避けた。