陳水扁総統は18日、来年の総統選挙の際、「『台湾』の名称で国際連盟に加入を申請をするか否か」の住民投票を実施する意向を初めて示した。
台湾意識を高めて選挙を有利にしようという戦術だが、米国は直ちに反対を表明した。
一方、国民党の総統選挙候補者である馬英九前主席が米国の批判に不満を表明し、従来とスタンスの異なった対応が注目された。
陳総統の発言は、訪台した米へリテージ財団のエドウィン・ヒュルナー理事長に対し行われたもの。「台湾という名称であれば、国号の改変問題とは関係なく、いわゆる『4つのしない』(台湾独立を宣言しないなど)の約束にも違反しない。
世界貿易機関(WTO)での『台湾・澎湖・金門・馬祖関税領域』、オリンピックでの『中華台北』など、台湾が国際組織で用いる名称はさまざまだが、『台湾』が最も適切で通りが良い」と説明した。
「台湾」の名称での国際組織への加盟は、先月、世界保健機関(WHO)への加盟申請に失敗したばかりだが、陳総統は「全世界に台湾人民の声を聞かせたかった。
これは立法院で与野党が一致した決議であり、世論調査でも95%が支持している」と強調した。
●明白な選挙戦術
台湾名義での国連加盟は、現状では中国の反対の下、全く不可能と考えられており、可否についての真剣な議論は起きていない。
総統選挙と同時にこのテーマで住民投票を実施することは、明らかに世論を台湾意識を高める方向に誘導し、台湾ナショナリズムをよりどころに選挙を戦ってきた民進党を有利にしようという戦術だ。
今年のWHO加盟申請では、米国、日本、欧州連合(EU)が反対票を投じ、正式な外交関係のある国のうち7カ国が棄権するなど、台湾は面子を失う結果となった。
「国際社会の情勢を正確につかんで生存空間の拡大に努めることが最も現実的な方策であるのに、台湾内部の問題である『正名』を国際社会に持ち出すことで反発を招き、深刻な地位低下につながっている」という批判は根強い。
●米台関係、さらに後退
この批判を証明するかのように、米国務省のシーン・マコーマック報道官は19日に直ちに反対を表明し、陳総統にこうした議題での住民投票を実施しないよう求めた。
反対の理由としては、「『一つの中国』政策の下、台湾の地位を一方的に変更するあらゆる計画に反対で、台湾海峡の緊張が高まることを懸念する」とした。
米国はこれまで、陳政権の住民投票実施表明に対し、「反対」「論評せず」「不支持」など表現を使い分けてきたが、今回は明確な反対だった。陳総統が昨年、「国家統一委員会と国家統一綱領の終結」を表明した際は、当初公開での説明を求めるだけだったことと比べ、より反対の意思が強まり、米台関係の後退が見て取れる。20日付中国時報は、「陳総統や呂秀蓮副総統が7~8月に中南米を訪問する際の米国トランジットで、どのような待遇を受けるか憂慮される」と報じた。
●馬氏、スタンス調整か
米国の反対表明に対し、馬英九氏は「台湾にとってプラスになり、尊厳に見合う名義で国連に加盟することは、台湾住民の多数の声を反映しており支持する」と批判してみせ注目を浴びた。
馬氏はこれまで、中台および国際関係の安定重視の立場から、陳政権による冒険的な政策や発言をたびたび批判してきたからだ。
馬氏は台湾アイデンティティーの欠落が常に批判されており、来年の総統選挙での最大の弱点とされている。前回の総統選挙でも、野党の連戦候補が最終盤で台湾アイデンティティー重視の主張を連発したように、馬氏も「台湾旋回」を見せることで本土派の票のつなぎ止めを目指す意向なのか、今後のスタンスが注目される。
なお、野党のある立法委員は馬氏の発言について、「米国と一緒になって陳総統を批判すると、直ちに『不愛台湾』の批判を浴びるためだ。馬氏の立場は変わっていない」と解説している。