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中台経済協定、「統一への一歩」と反発強まる


ニュース その他分野 作成日:2009年2月23日_記事番号:T00013570

中台経済協定、「統一への一歩」と反発強まる

 
 尹啓銘経済部長は22日夜、政府が締結を目指す中国との経済協力協定について、「台湾の孤立化を避けることが目的で、世界貿易機関(WTO)での名称を使用したい。一刻も早い実現が望まれる」と発言し、反対する野党陣営に理解を求めた。2010年に中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の自由貿易協定(FTA)が発効した場合、台湾の経済成長率は0.15%押し下げられるという予測もあり、政府は経済界の支持を基に協定を推進する構えだ。しかし、米紙ワシントンポストが「中台統一に向かう重要な一歩になる」と早速論評するなど、将来、政治的枠組みに大きな影響を与える可能性も指摘されており、野党陣営は反発の度合いを強めている。23日付経済日報などが報じた。

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独立派は経済協定が中台の「現状の変更」になる可能性があるとして、住民投票の実施を訴えている。頼幸媛行政院大陸委員会主任委員は22日、「主権問題にはかかわらないため、住民投票の必要はない」という考えを示した(22日=中央社)

農産品は保留

 尹経済部長は中台経済協力協定の原則について、(1)世界貿易機関(WTO)で使用している「台湾・澎湖・金門・馬祖関税領域」の名称で締結する(2)総合的経済協力協定(CECA)ではない適切な名称を再検討する(3)石油化学・機械産業を優先協議対象とし、農産品は当面保留扱いとする──という3点の方針を示した。

 尹経済部長は、中国とASEANのFTA発効後、範囲が日本、韓国、インドとさらに広がるため「台湾は生死の瀬戸際に立っている」と強調。「孤立化を避けるためには対岸(中国)との経済協定締結が必須で、公平・対等・尊厳の原則の下、双方にとって有益な項目から協議したい」と語った。FTA発効によって、中国ASEAN間の関税税率は現行10%以下のものが0%に下がる一方、台湾の石化原料、機械製品は6%と8%の関税課徴が続くため、「これらを優先対象とする一方、農産品は引き続き開放しない」という立場を示した。

 また、協定の名称や締結方式については各界の意見を幅広く求め、合意形成に努めたいとした。

雇用、11.4万件減少

 中華経済研究院によると、中国とASEANのFTA発効で台湾の域内生産総額(GDP)は12億4,000万米ドル減少し、経済成長率は0.15%押し下げられる。さらに12年までに日本と韓国を加えた「ASEANプラス3」のFTAが実現すればGDPは52億2,000万米ドル減少し、成長率は0.7%減速、11万4,000件の雇用が失われる。産業別では現在対中輸出額が年間39億米ドルに上る紡織業で、10%関税が残る結果、生産額15億8,000万米ドル減、雇用が域内の10分の1に当たる1万2,000件減少し、最も大きな影響を受ける。

 ナイロン大手、力鵬企業の林文仲総経理によると、同社は既に複数の日本の顧客から、来年以降発注先をベトナムや中国に移すと予告を受けている。「政府が今年中国との経済協定を結べなければ、来年は紡織業者の多くが海外に脱出する」と林総経理は語っている。台湾紡織業界にとっては、韓国が中国とFTAを結んだ場合、韓国企業に中国市場を大きく侵食されることが目に見えていることも、懸念材料だという。 

 石油化学の長春集団(CCPG)の蘇士光副総経理は、「ASEANプラス1」「ASEANプラス3」のFTAによって、台湾の石化業界は「受注が全くなくなり数割の縮小に見舞われる」と語り、台湾がこうした枠組みから孤立することは極めて深刻な結果を生むと懸念を示す。

台聯・黄主席「馬総統の罷免も」

 一方、独立派は経済協定への反発を強めている。台湾団結聯盟(台聯)の黄昆輝主席は22日、馬政権が締結を推し進める場合、全土の民間組織や市民に反対行動を呼び掛けるとともに、馬総統の罷免運動も辞さないと語った。その上で、「馬政権は中国経済との経済、社会、教育、文化の融合を促進する構えで、このままでは任期末までに中国との統一を成し遂げられてしまう」と危機感を訴えた。

 民進党政権時代に財政部長やWTO大使を歴任した顔慶章氏も、「中国が台湾を支援したいのであれば、必ずしも経済協定を結ぶ必要はない。経済協定が将来的に経済統合や、それ以上の統合にかかわるのであれば、住民投票が絶対必要で、十分な討論がなされて(台湾社会で)共通認識が持たれるべきだ」と述べ、政府の「まず経済協定ありき」の姿勢に疑問を投げ掛けた。

 

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「統一への必要条件」

 独立派の「経済協定は統一への一里塚」という懸念を裏打ちするように21日付米紙ワシントンポストは、「経済協定は中台が統一へ向かう重要な一歩となるかもしれない。台湾は同協定の政治的影響力を低減させようとしても、中国は最終的統一に向けての協定の重要性を認識している」と指摘した。

 中国側では、アモイ大学台湾研究センターの李非副主任が「経済協定は両岸(中台)経済の全面的統合の起点であり、最終的な統一への必要条件だ」と語っており、ワシントンポストとの見方が的を得ていることがうかがえる。

 中国が長年にわたり台湾との経済交流拡大策を推進してきたのは、「経済で台湾を取り込む」戦略のためと言われている。中台経済協定の締結計画は、その戦略が詰めのステージに入りつつあることを象徴しているという見方ができそうだ。

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