ニュース 政治 作成日:2009年5月21日_記事番号:T00015510
馬英九総統の就任による民進党から国民党への8年ぶりの政権交代から、今月20日でちょうど1年を迎えた。この間、中国との経済交流が大きく進み、中台関係は全く新たな段階に入ったといえる。中台関係の現状と今後の展望について、国民党の対中政策業務の責任者である張栄恭副秘書長兼大陸事務部主任に話を聞いた。
張栄恭・国民党副秘書長兼大陸事務部主任
──この1年の対中関係の変化をどう評価していますか。
張栄恭:馬総統の就任によって、両岸(中台)関係は飛躍的な発展を見ました。1999年、李登輝元総統の「二国論」で両岸対話は中断。陳前総統時代、大陸(中国)との間に信頼関係は生まれず、対話は中断したままでした。しかし、国民党への政権交代によって、大陸の台湾に対する善意は明確になりました。国民党が台湾独立を推進することはあり得ないためです。
最近の各メディアの世論調査によると、馬総統の業績の中でも両岸関係の改善が最も高い評価を受けており、大きな満足を感じています。
ECFA、台湾の利益を最大限に
──今年下半期、台北で政権交代後4回目の中台公式協議(江陳会)が行われます。今後はどのようなテーマについて話し合っていきますか。
張栄恭:第4回江陳会の協議内容は、漁業における労務協力、農産品の検査、工業製品の検査、中台間の二重課税防止の4項目が既に決まっています。両岸の人とモノの交流が密接になるほど、検査のようなルールの確立が必要になってくるのです。
さらに、台湾側が要求している両岸経済協力枠組み協議(ECFA)が恐らく加わります。大陸と東南アジア諸国連合(ASEAN)の間で来年自由貿易協定(FTA)が発効。ASEAN製品の大陸輸出は免税となる一方で、台湾製品は課税されてしまうため大きな打撃となり、この問題を重視しています。
民進党は「ECFAを結べば台湾に必ず悪影響をもたらす」と主張していますが、両岸協議を通じて、台湾の利益を最大限に、悪影響を最小限にすることを目指します。
より良い解決策を次世代に期待
──中国は台湾統一という目標があり、そのために現段階では経済関係を強化して取り込み、やがて影響力を強めようという戦略があるのではないでしょうか。将来的に台湾の主権が侵害される恐れはありませんか。
張栄恭:両岸関係が将来どのように発展していくかについては、次の世代やその次の世代、さらに第4、第5の世代が、より賢明な解決策を見いだすと考えています。
両岸関係はまだ、最終的な判断が必要な段階には至っていません。このため、われわれ国民党が与党として現段階で追求する目標は「現状維持」であり、「両岸の平和」そして「経済的互恵」です。大陸が統一を目標にしており、今後台湾への影響力が大きくなるからといって、恐れて交流をしないということはあり得ません。交流を断ったら台湾経済はおしまいです。
われわれは台湾人民が現時点で統一を支持しないことを理解しており、統一を主張することはありません。台湾人民の考え方がポイントです。大陸側も十数年にわたる台湾との接触を通じて、特定の政治的主張の受け入れを迫ることはできないと理解し、いかに現状維持を図るかを考えるようになりました。今はそうした段階にあると思います。
国際関係、存在感の向上が重要
──今週、台湾は38年ぶりに世界保健機関(WHO)の年次総会(WHA)に復帰しました。しかし、WHOのホームページで台湾が中国の一省扱いされた問題が明らかになりました。これをどう感じますか。
張栄恭:台湾はこれまで、WHOに対し発言の機会が一切ありませんでした。しかし、WHAへの参加によってようやく発言の機会を得たのです。ホームページの問題も、参加できれば変更を求めることができます。そして、参加できないままであってもホームページの表記はそのまま同じでしょう。
北京五輪で大陸側のメディアセンターは当初「チャイニーズ・タイペイ」の中国語名を「中国台北」と表記しましたが、両岸の交渉によって「中華台北」に改まりました。コミュニケーションがあってこそ、良い方向に変化させることができるのです。
われわれが求めるのは他の参加国との平等な待遇であり、国際関係の中で存在感をより高めることが重要です。台湾はアジア太平洋経済協力会議(APEC)などに「チャイニーズ・タイペイ」として参加しています。もちろん不満で、台湾か「ROC(中華民国)」の名称で参加したいですが、それは不可能です。名称は不満でも受け入れます。参加してこそチャンスがあるのです。
──馬総統は今月上旬、再選できた場合に中国と政治的対話を行う可能性について触れました。実現すれば台湾にどのようなメリットがありますか。
張栄恭:政治的対話の実現性については、その時の国際環境と台湾の民意、それにわれわれがどの程度の交渉テクニックを持っているかを見なければならないでしょう。
政治対話は比較的難しい問題です。中国の力量のほうが大きく、交渉すれば台湾が不利になる可能性が高いからです。ゆえに国民党は時間をかけて取り組む必要があると認識しています。馬総統も「可能性がある」と述べただけで「必ずやる」とは言っていません。
両岸にとって政治問題への取り組みは、遅ければ遅いほどいいと思います。政治に関する意見の相違は大きく、早めに解決しようとすると膠着(こうちゃく)状態に陥り、経済面での協力に影響します。ゆえに、まずは経済面の協力関係を築き上げた後、簡単な政治問題から段階的に取り組むのがいいと思います。
「統一は先延ばしできる」
──国民党と共産党にとり「一つの中国」は、「それぞれの解釈」と「台湾は不可分の領土」で、かなりの違いがあります。政治対話を始めると矛盾が顕在化しませんか。
張栄恭:「一つの中国」についての対話は確かに最も困難です。しかし、最近大陸はWHAでもAPECでも五輪でも「一つの中国」には触れず、フレキシブルに対応しています。信頼関係があれば個別のケースにおいては「一つの中国」もフレキシブルに話し合っていける可能性はあります。
──今後、中台関係を発展させる上で、何が重要だと考えますか。
張栄恭:民主政治で重要な点は、より多くの人民の支持を得ることです。それが可能である限り、われわれは現在の路線を維持します。
仮に台湾人民が統一を支持したら米国も日本も反対できません。しかし、台湾人民は統一の時期が来たとは思っていません。このため、統一の時期があまり早く来過ぎないようにしなければなりません。あまり早いと台湾人民のためになりません。
両岸関係をうまく運べば、統一の時期を先延ばしできます。できなければ、統一は逆に早まってしまいます。民進党が政権を取って今日独立を宣言すれば、明日統一されてしまうように。うまくやれば20年、30年、場合によっては50年と先延ばしできるのです。
張栄恭副秘書長プロフィール
1950年台北市生まれ。59歳。輔仁大学法律系卒業。中央社執行副編集長兼大陸部主任、国民党文化伝播委員会主任委員などを歴任。専門は中台関係。
◎取材後記
張副秘書長は「台湾人民は現時点では統一を支持していない」と2度にわたって強調した。その上での「統一が早く来過ぎないようにしなければならない」という発言からは、「いずれは統一する」という認識の下、中台関係や中国社会が変化を遂げれば台湾住民が統一を支持する可能性に、一定の確信を持っていることがうかがえた。
中国時報の最近の世論調査では、中台関係について「永遠に現状維持」が44%、「現状維持後、状況を見て独立」が24%、「できるだけ早く独立」が9%で、中台交流が急速に進む一方で独立志向の割合が過去最高となった。そうした中で、国民党の対中政策業務の最高幹部がこうした展望を持っていることは注目に値する。
張副秘書長と同様の認識は、「両岸関係はわれわれの世代が決めてよいものではない」と発言した馬総統をはじめ、政権首脳部も共有しているとみられる。そして、現在は経済面の協力関係を強化し、信頼醸成を図ることが中台の将来にとって最良という判断の下、台湾をその方向に大きく動かしているのだ。
(Y’s News)
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