7月4日に正式開通する台北MRT(都市交通システム)の新路線、内湖線で29日、沿線住民を対象とした試乗イベントが始まった。同路線は中台直航便の発着点となっている松山空港に乗り入れ、中台間のビジネス往来で利便性向上が期待される。また、内湖と太平洋そごうや微風広場(ブリーズセンター)などが控える忠孝復興地区や、台北101を中心とする信義計画区といった台北市の中心的商圏が直接結ばれることになり、両地区の百貨店間での競争激化も予想される。
緑の中を進む内湖線。台北市内とは思えない自然豊かな景色が車窓に広がる(29日=YSN)
内湖線は2002年に着工し、総工費667億台湾元(約1,900億円)、7年の年月をかけて建設された。木柵線終点駅の中山国中駅から北に延長し、松山空港駅、高級住宅地の大直駅、大型ショッピングモール、美麗華百楽園(ミラマー・エンターテイメント・パーク)のある剣南路駅を経由。さらに、内湖科学園区内の各駅、南港軟体園区駅を経て南港展覧館駅まで全長14.8キロメートルを結ぶ。
試乗イベントでは、内湖線をいち早く体験しようと集まった沿線住民が8時半からの整理券配布に行列を作った。30代の会社員男性はワイズニュースに対し、「これまでバスで50分かかっていた出勤が、今後は20分に短縮される」と喜びを語った。
内湖線は沿線風景の美しさが大きな特色だ。北側は全線を通じて緑深い山々に臨み、大湖公園駅を過ぎると南側に広がる大湖、東湖駅から南港軟体園区駅にかけて渡る基隆河といった光景は、台北MRTの他の路線にはない旅情を味わわせてくれる。
台湾メディアではこれまで、内湖線の車両内の狭さに対する懸念が報じられてきた。しかし、車両は木柵線で使用されているものとほぼ同じで、他の路線よりは一回り小さいが、全座席を向かい合わせに設置して中央のスペースを空けたため、木柵線ほどの狭さは感じなかった。ただスーツケースを持った乗客が多くなると予想される松山空港周辺区間では、狭すぎると不満が起きる可能性は否定できない。
産業拠点へMRT1本で
内湖線開通後は、松山空港から内湖科学園区や南港軟体園区、国際的な大型展示会が数多く開かれる世界貿易センター南港展覧館へもMRT1本で行けることになる。内湖科学園区の業者からは「空港から直接われわれの会社に来られるため、両岸(中台)間の出張が便利になる」と好感する声も聞かれ、中台間の経済交流活性化に一役買いそうだ。松山空港は今後、上海虹橋、東京羽田、ソウル金浦との直航も予定しており、内湖線は「ビジネス路線」としての役割を高めていきそうだ。
内湖小売業界に期待と懸念
内湖エリアの小売業者の間では、アクセスが便利になることによる、期待と懸念がともに高まっている。剣南路駅そばの美麗華は、内湖線開通が来客数25%増、売上高15%増をもたらすと予測しており、開通に合わせてホテル宿泊券などを5元で販売するなどの思い切ったキャンペーンを打ち出す。
観覧車が目印の美麗華百楽園。内湖線開通当日は、悠遊カードと身分証持参で観覧車に5元で乗れるキャンペーン(先着150人)を行う(29日=YSN)
一方、内湖駅近くの日湖生活百貨(元・徳安百貨)は、従来地元住民のための百貨店という位置付けをしてきたが、今後は忠孝商圏の百貨店との差別化をより一層強化する必要があると考えている。同百貨店の游明卿営業総経理は、「生活リビング用品、流行のIT(情報技術)商品を重点として戦略の見直しを図る」と語る。
また美麗華に隣接する家楽福(カルフール)大直店も、来客数の増加には期待しているものの、今後はリビング用品やレジャー用品を強化するなど差別化重視がうかがえる。
一方、忠孝東路沿いに2店舗を構える太平洋そごうは、大直や内湖科学園区の住民は消費力が高く、客単価の上昇につながると好感しており、内湖線の開通によって来客数、売上高ともに10~20%成長するとの見方だ。
内湖不動産価格、「年内に10%上昇」
今年1~5月の内湖線沿線における不動産の成約件数は、台北市の人気商圏とつながることが好感されて、明らかな増加傾向となっているという。不動産業者は、開通後年内に約10%値上がりする可能性があると指摘している。
不動産仲介の永慶房屋によると、特に人気となっているのは、緑地公園が多く、比較的低価格物件が集まる東湖駅周辺エリアで、今年同地区の成約件数の31.7%を占めている。また美麗華に近い高級住宅地の大直も、空港、台北市中心部、科学園区などへのアクセスが便利になることから、海外で働く台湾人ビジネスパーソンや大企業経営者の注目を集めており、信義房屋によると同社インターネットサイトの物件閲覧率で1位となっているという。
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