若い兵士たちが地面に鼻を近づけ、クンクンと必死でにおいを嗅いでいる。これは、台風8号(アジア名・モーラコット)によって行方不明になった被災者の捜索活動のひとこまだ。
高雄県六亀郷新発村で「聞屍」による遺体捜索に当たった陸軍第6軍団の中には女性兵士5人の姿も(18日=中央社)
中国語で「聞屍」と呼ばれるこの捜索方法は、人の嗅覚によって、土石流などに埋まった遺体を探し当てるもの。陸軍第8軍団の胡瑞舟政戦主任によると、韓国の救助隊によって持ち込まれたノウハウだという。
ところが、「聞屍」をする兵士の姿がメディアで報道されるや、世間からは驚きや感動、疑問の声などさまざまな反応が。兵士の親からは「うちの子は救助犬じゃない」と不満の声が続出した。
廖了以内政部長も「信じられない。なぜ、人の200倍の嗅覚を持つ救助犬を使わないのか?」と驚きをあらわにし、原始的なやり方だと批判した。
これを受けて国防部は直ちに「聞屍」を禁止。遺体捜索に行政院国軍退除役官兵輔導委員会(退輔会)、清雲科技大学、台湾中油から提供されたレーダーや探測機を投入し、救助犬とともに続行することになった。
1999年の台湾中部大地震では救助員の1割以上にストレス症候群が見られたというが、今回も既に一部の兵士に遺体捜索による心理的なストレスが出ている。遺体に接することで遺体の「毒素」を浴び、赤い発疹(ほっしん)などの皮膚病に悩まされるケースもあることから、国防部では兵士らに対し、健康診断やメンタルケアを行う方針だ。
高雄県六亀郷新発村は16日から経験豊富な韓国人救助員3人を中心に、陸軍兵士160人が「聞屍」を行っていたが、19日からはレーダーでの捜索に切り替えられた。ただ、地下3メートルの物体を捜索することができるレーダーの力も、新発村では土石流に含まれる水分量が多く、地下1メートルまでも及ばなかった。悪天候も重なり、結局この日は何も発見できず。文明の利器も万能ではないようだ。