劉兆玄行政院長は7日、台風8号(アジア名・モーラコット)の水害救援の不手際の責任を取り、10日に内閣が総辞職すると発表した。後任の行政院長には呉敦義・国民党副主席兼秘書長が、副院長には朱立倫・桃園県長の就任が決まった。2人はともに県市長を経験しており、学者出身者が多く危機管理にもろさを露呈した劉内閣に代わり実行力、および世代交代で政権イメージを回復させる役割が期待されている。当面は災害復興や中台間の両岸経済協力枠組み協議(ECFA)などの課題で、手腕発揮が求められる。
呉敦義次期行政院長。既に大部分の閣僚人事が決まったことを明らかにした(7日=中央社)
県市長選挙を3カ月に後に控えたこの時期に内閣刷新を行う最大の理由は、政権イメージの回復にあるとみられる。政府の水害救援が遅れ、対応の悪さに批判が噴出する中、劉行政院長は「今回の行政部門による救援は台湾中部大震災の時よりも速い」と発言。南部が豪雨に見舞われていた8月8日の晩に新竹の実家で父の日を祝っていたことや、救援活動まっただ中の11日に理髪店で髪を染めていたことも発覚し、行政院長としての資質に疑問符が投げ掛けられていた。
馬英九総統は当初、劉行政院長を留任させる意向を示していたが、本人の強い辞意もあり、最終的に辞任を認めた。人気が急落した劉行政院長を続投させた場合、県市長選の結果が厳しいものになるという判断があったものとみられる。
後任の呉氏は南投県出身で、南投県、高雄市の首長を歴任した。馬政権は台風で被害の集中した南部で特に評価を落としており、外省人の劉行政院長から南部で行政経験のある本土派の呉氏に交代させることで人気回復を図ろうという意図は明らかだ。
また、行政院副院長に就任する朱立倫氏は経済に明るく、桃園県長として8年近い実績を積んだ次世代リーダーとして有望視されている。今回は初の中央への抜てきとなった。
経済政策の主軸は不変
8日付経済日報によると、新内閣の経済政策は、基本的に劉内閣のものを継続する見通しだ。中台間で最大の経済課題であるECFAは馬政権の重要施策であり、変更はない。10月から事務レベルの協議が予定されているが、経済部内部の意見統合、各部間の調整で、早速呉氏の手腕が試される。
劉内閣が打ち上げたバイオテクノロジー産業などの六大新興産業は既に推進段階に入っており、呉内閣でも引き続き実行する。省エネルギー、温暖化ガス削減政策も同様だ。
なお、財政・経済部門の閣僚は、尹啓銘経済部長に交代の可能が取り沙汰されているものの、任期が決まっている彭淮南・中央銀行総裁と陳冲・行政院金融監督管理委員会(金管会)主任委員、および李述徳・財政部長はいずれも留任となる見通しだ。
「人の和」が課題
呉次期行政院長は「友人もいないが敵もいない」、一匹狼的な性格として知られ、この点は馬総統とよく似ている。計略に優れて実行力があり、上司からは評価されるが、同僚からは敬遠される傾向があって国民党内での評価は両極端だという。このため8日付自由時報は、「人の和を図っていけるかが最大の鍵だ」と新内閣の課題を指摘した。
劉内閣は1年4カ月の短命で終わった。台湾は1980年から2000年まで内閣の平均寿命は3年7カ月だったが、00年から08年までの民進党政権では1年4カ月だった。劉内閣も短命内閣の流れを変えることはできず、こうした状態が続いていることは台湾の国際競争力強化にとってマイナスという指摘も出ている。