中国商機の政治リスクが顕在化してきた。中国当局が「高雄旅行の一時停止」を旅行会社に指示したことにより、高雄市の観光ホテルで今月、中国人観光客によるキャンセルが相次ぎ合計3,000室を上回ったもようだ。陳菊市長が中心となってダライ・ラマ14世を訪台させたこと、および10月に同市で開かれる映画祭で、中国政府が「民族分裂分子」と非難する亡命ウイグル人組織のラビア・カーディル議長を追ったドキュメンタリー映画の上映が予定されていることが原因とみられ、高雄市観光旅館同業公会は映画の上映中止を市政府に求めている。17日付中国時報が報じた。
中国はダライ・ラマを招いた政治的意図を容認しない姿勢だ。18日に日本から帰台する陳菊市長(右)の反応が注目される(中央社)
中国人観光客によるホテル別のキャンセル数は、▽高雄金典酒店、800室▽高雄国賓大飯店、700室▽高雄漢来大飯店、500室▽高雄福華大飯店、300室──など。このほか、中国人観光客を中心に営業しているホテルで1,000室を超えるキャンセルが出たという。業者によると「被害額」は宿泊料だけで600万台湾元(約1,680万円)に上る。10月分も既に100~200室のキャンセルが出ており、10月1日から8日間の中国の国慶節連休に期待を寄せていた業界の落胆は大きい。
なお、中国国務院台湾事務弁公室(国台弁)は16日、「ラビアは7月5日にウイグルで起きた暴動を扇動した犯罪分子であり、台湾が彼女を容認するような態度を取れば、ダライ訪台で傷ついた両岸(中台)関係はさらに深刻な悪化を見ることになる」と警告した。これを受け、高雄市観光旅館同業公会は16日緊急会議を開催し、10月の高雄映画祭でのカーディル議長の映画「愛についての10の条件」の上映中止を陳市長に文書で正式に求めることを決めた。業界の求めに応じれば「中国の圧力に屈して表現の自由を抑圧した」と批判を受けることになり、高雄市は難しい判断を迫られそうだ。
楊毅報道官はダライ・ラマ14世訪台について、「両岸関係への不利な影響をできるだけ排除するよう台湾に希望する」と釘を刺した(16日=中央社)
ECFA締結交渉、態度を保留
国台弁は16日、ダライ・ラマ訪台後初となる記者会見を開催した。楊毅報道官は、中台間で締結を目指す金融監督に関する覚書(MOU)および両岸経済協力枠組み協議(ECFA)について、「大陸(中国)側は(締結に)前向きな姿勢で一貫している」と発言した。しかし、「10月中にECFA締結交渉を開始したい(呉敦義行政院長)」「来年春までには締結したい(馬英九総統)」など、最近台湾側から相次いだスケジュール提示に対する反応はなく、中国側が現在、模様眺めの態度を取っていることをうかがわせた。
従来、ECFA締結に関する中国側の公式コメントは「下半期に交渉を開始したい」というものだった。しかし、今回の会見では出席した記者の2度の質問に対しいずれも「前向きな姿勢で一貫」とのみ答えており、明らかな後退が見られるようだ。
「中台で利害衝突も」
なお、こうした中国の一連の姿勢について、本紙で「台湾経済 潮流を読む」のコラムを連載しているみずほ総研アジア調査部の伊藤信悟上席主任研究員は、「中国の少数民族問題が中台の経済関係にも影を落としているのは事実だが、ECFAでは中台の利害関係の衝突があり、政治問題がなくなればスムーズに進むという訳ではない。政治がすべてではないという点も考慮に入れないと、交渉の進展を見誤る恐れもある」とコメントした。