財務悪化の進む台湾高速鉄路(高鉄)の経営を、政府が主導することになった。呉敦義行政院長は20日、殷琪董事長の交代を表明。早ければ11月に董事会(役員会)の政府系董事の数を半分以上に引き上げて、銀行団との債務借り換え交渉で金利引き下げの合意に結び付ける構えだ。高鉄の運行維持という大前提の下、台湾初で最大のBOT(建設、運営、譲渡)計画は崩壊が確実となり、当初見通しの甘さを指摘する専門家の声も出ている。21日付工商時報などが報じた。
時間帯別割引運賃など売上増に向けたさまざまなアイデアをめぐらしたが焼け石に水だった(YSN)
呉行政院長は20日、殷董事長が22日に辞任を願い出ると明かした。大陸工程(コンチネンタル・エンジニアリング)代表である殷氏は今後も董事にとどまり、後任には政府系株主の代表として欧晋徳執行長(CEO)がほぼ確定しているようだ。
22日の臨時董事会では、臨時株主総会の開催と、董監事の全面改選が提案されるもようだ。中国鋼鉄(CSC)が約2カ月前、高鉄の特別株を普通株に転換し、出資比率9.3%(特別株を除く)の筆頭株主に浮上していることから、早ければ11月とみられる臨時株主総会で、政府系の董事長、執行長が誕生する見通しだ。董事も政府系8人・民間7人と、現在の政府系3人・民間9人から形勢が逆転する。
運営費は収入のわずか2割
政府系株主が高鉄の経営に当たる計画は、金利引き下げの向けた債権行との債務借り換え交渉の難航が念頭にある。高鉄は資本金1,051億台湾元(約2,960億円)に対し、今年6月末時点の累計損失は702億元、累計負債は計4,614億元に上る。一方、売上高は毎月20億元前後にとどまっており、例えると毎月10元の収入のうち利息支払いに4元、減価償却に4元が充てられ、運営費に2元しか残らない計算だ。財務状況を改善しない限り、損益均衡に達する日はほど遠い。
ある銀行関係者は、政府系株主が高鉄董事の過半を占めるか、さらには議決権を握れる3分の2の董事席を確保することを債権行は期待していると指摘した。今年7~8月には、債権行による減資・増資計画提案に対し、計36.8%を出資する大陸工程、富邦金融控股など民間5社が反対したため、協議が決裂した経緯もある。なお、3,900億元近い協調融資(シンジケートローン)の主幹事を務める台湾銀行は、高鉄董事長交替などの情報はまだ得ておらず、今後の状況を見て検討するとコメントしている。
政府はまた、朱立倫行政院副院長を首班とする特別対策チームを立ち上げ、高鉄の経営改善を図る構えとも伝えられている。
当初の見通しに甘さ
BOTで進められた高鉄は、投資コストが回収されないまま、前倒しで政府への事実上の譲渡が行われることになった。これについては、政府が出資を行わずに高鉄の運営を続ける唯一の方法だと、台湾各紙は指摘している。
成功大学管理学院の張有恒院長は、「BOTに対する幻想があった」と当初の見通しの甘さを批判した。淡江大学運輸管理学系の陳敦基教授も「民間にはもともとこうした膨大な財務を支える能力はなかった」と、計画に自体に無理があったと語った。張院長はまた、建設後にいったん政府が引き受けて、経営に適した企業に譲渡するBTO方式こそが好ましいと指摘。政府の監督が行き届かず同様のリスクが考えられるケースとして、高雄MRTを挙げた。
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