中国のカラーテレビ最大手、TCL集団が深圳市での8.5世代液晶パネル工場の建設に向けて、奇美電子(CMO)の幹部やエンジニア100人余りのヘッドハンティングを敢行したもようだ。中国の経済誌「財経」が報道したもので、6日付経済日報は「中国メーカーが台湾の技術を導入してパネル工場を整備すれば、台湾大手からの調達縮小など悪影響が予想される」と警鐘を鳴らしている。
TCLが奇美電から引き抜いた人材には、奇美電の中国パネル業務の責任者だった陳立宜・液晶テレビパネル事業総処長や陳政?・液晶テレビ事業処技術総監が含まれるという。奇美電の陳世賢広報担当は5日、「うわさは事実ではない。100人余りが離職したということはない」と報道を否定した。しかし、陳立宜氏のTCL転職は事実という市場関係者の指摘もある。
TCLの李東生総裁は今年9月、液晶パネル前工程に進出する考えを示しており、深圳市および深圳市傘下の深超光電の出資を受けての8.5世代工場を計画している。詳細はまだ決まっていないが、投資額は約300億人民元(約4,000億円)で、深圳市の出資額は約100億元と見込まれている。
TCLは日本や韓国メーカーから顧問クラスの人材のヘッドハンティングも行っており、建設計画が明確になる来年3月以降、人材招聘(しょうへい)もさらに本格化するとみられる。なお、奇美電に対するヘッドハンティングについては、8.5世代工場計画に奇美電を引き込む深圳市の狙いに基づいたものという観測もある。
中国家電業界、重要顧客に
TCLの今年の液晶テレビの出荷台数は750万~800万台、来年は1,200~1,300万台と予想されている。今年は中国政府の政策に基づいて、友達光電(AUO)、奇美電の台湾パネル2強からの調達を拡大し、ブランドと販路を持たず金融危機で大きな打撃を受けた台湾パネル業界にとって、大きな恩恵となった経緯がある。しかし、TCLをはじめ中国家電メーカーが自社パネル工場を設ければ、台湾メーカーからの調達は大きく減少する恐れがある。
中国は2011年に米国を抜いて世界最大の液晶テレビ市場になると予想されている。大きく拡大する内需に対応すべく、蘇州、昆山、北京、南京、広州などの都市が第8世代以上のパネル工場設置を目指して海外または地場大手の誘致に動いており、いまだパネル前工程の中国投資を認めていない台湾は、「既に競争に出遅れている」(王志超・奇美電総経理)と指摘される状況だ。
ヘッドハンティング報道が事実とすれば、中国投資の開放の遅れがもたらした弊害との見方もできる。政府に早期開放を求める声が改めて強まることも予想される。
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