台湾積体電路製造(TSMC)は10日、中国ファウンドリー最大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)を営業秘密の不正取得・使用で提訴していた裁判で和解し、SMICへの10%出資などが決まった。現時点で先進プロセスへの対中投資は認められていないが、規制緩和により実現した場合、中国商機の大幅拡大が期待できる。将来的には巨額の赤字を抱えるSMICを合併して、世界最大手の地位をさらに強固なものにできるという観測も出ている。11日付工商時報などが報じた。
両社の和解により、TSMCはSMICから賠償金2億米ドルを5年分割で受け取り、また、SMICの株式10%を2回に分けて譲渡される。SMICはまず、約8%に当たる17億8,900万台湾元(約49億円)分の普通株を発行してTSMCに譲渡し、その後3年以内に1株1.3香港ドル(約15円)で6億9,600万株(約2%)のワラント(株式購入権)を付与する。SMICの大株主は現在、▽中国の通信設備メーカー、大唐電信(持株比率16.6%)▽上海市政府が筆頭株主の上海実業控股(同10%)──で、TSMCは上海実業控股と並ぶSMICの2位株主になる見通しだ。
ただ、経済部投資審議委員会(投審会)は10日、ファウンドリーの中国投資は8インチウエハー工場、製造プロセス18マイクロメートルまでとなっており、SMICは12インチ工場を保有しているため、TSMCが投審会に申請しても現状では許可が下りない可能性が高いとしている。これに対しTSMCは、株式譲渡については台湾政府の許可に従い、実現不可能な場合は別の方法を採ると強調。さらに、出資が実現した場合も、SMICに役員を派遣して経営にかかわることはないと表明した。
それでも、10%出資が実現した場合、TSMCはSMIC取締役会の議決権を保有して、ライバル企業によるSMIC合併を防ぐことができるメリットもある。
SMIC総裁交代、「2度目の敗北」
SMICは10日の董事会で、創業者である張汝京氏の総裁辞任と、TSMCを顧客とする米半導体製造装置メーカー、アプライド・マテリアルズ(AMAT)でかつて執行副総裁を務めた王寧国氏の総裁・執行長(CEO)就任を決定した。
張汝京氏の辞任は、累積損失額が8億米ドルを超えるまでに経営状態を悪化させた責任を取ったものと業界で目されている。ただ、両社の和解条件の一つという見方もある。
台湾出身の張汝京氏はかつて、米テキサス・インスツルメンツ(TI)で張忠謀TSMC董事長と上司・部下の関係にあった。帰台後に総経理を務めた世大積体電路(WSMC)は99年TSMCに買収され、その後張忠謀董事長の誘いを拒否して中国に渡りSMICを設立した。しかし今回は事実上の引責辞任となり、張忠謀董事長に対する2度目の敗北と報じられている。
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