直轄市および直轄市に昇格する台北、台中、台南、高雄を除く17県市の首長選挙が5日行われ、野党民進党が現有の雲林県、嘉義県、屏東県に加え、宜蘭県を与党国民党から奪回し4県で勝利した。国民党は宜蘭県と花蓮県を失ったものの12県市を確保した。民進党は県市長選では過去最高の得票率45.32%を獲得。大敗した前回2005年の38.19%(17県市)から7.13ポイント伸ばし、党勢立て直しの足掛かりをつかんだ。国民党は得票率47.88%で、前回から1.92ポイント(同)落とした。投票率は63.34%で前回から2.88ポイント低下した。
「結果に満足」と蔡英文・民進党主席(中)。過去20年で初めて陳水扁前総統の姿のない選挙での好結果は、同党が新たな時代を迎えたことも示した(5日=中央社)
馬総統、敗北と認めず
花蓮県は国民党から除名処分を受けながら立候補した傅崐萁候補が当選し、同党支持の姿勢を打ち出している。このため、同党が失ったのは実質的に呂国華県長の施政評価が低かった宜蘭県のみと言える。得票率も傅候補および同様のケースである新竹県の張碧琴候補(落選)の得票を合わせれば51.57%となり、前回を1.78ポイント上回るため、国民党勢力全体が退潮に見舞われたとは言えない。台湾メディアには民進党の健闘から、「馬英九総統の敗北(工商時報)」「有権者が馬総統に教訓を与えた(自由時報)」などの報道も見られたが、馬総統(国民党主席)は5日夜の記者会見で結果を敗北とは認めなかった。
しかし、前回18万票以上の差で勝利した桃園県で、呉伯雄前主席の息子の呉志揚候補と民進党の対立候補との票差が5万票以下まで縮小したり、国民党が地盤とする澎湖県と台東県では辛勝を余儀なくされた。また、民進党が県長ポストを守った雲林県、屏東県では、国民党候補に対するリードを前回からさらに拡大するなど、国民党にとっては思わしくない状況となった。
05年大勝の反動
この結果は、大勝した前回05年県市長選の反動、および巨大与党を忌避するバランス感覚が有権者に働いたためとみられる。
05年の県市長選は、8月に陳水扁前政権の高官が関係したとされた高雄都市交通システム(MRT)をめぐる汚職疑惑(09年2月に無罪確定)が発覚した直後で、陳前総統の一貫性を欠いた政策態度、与野党支持層間の対立を煽る政治手法が嫌気され、さながら陳前総統への不信任を突き付ける場となった。民進党は台北県をはじめ5県市を失う惨敗。国民党は9県市から14県市へと伸ばす躍進を遂げていた。
桃園県では、前回は国民党48万9,979票に対し民進党30万7,965票(投票率61.77%)。今回は国民党39万6,237票に対し民進党34万6,678票(投票率53.73%)となった。前回は民進党支持者が陳政権不信から投票に行かず、国民党支持者が投票に行って投票率が高まった一方、今回は国民党支持者が投票に行かなかった結果、投票率が低下して票差も縮まったことが分かる。
この間、08年1月の立法委員選挙では国民党が81議席、民進党27議席の圧倒的大勝。3月の総統選挙を経て国民党は政権交代に成功し、巨大与党となった。この状況下で、今回は国民党支持者に投票に赴く情熱が起きず、民進党支持者が投票行動を回復させたことが結果に反映したとみられる。今回の選挙でも、国民党と民進党の支持勢力の割合に大きな変化はなかった。
このため選挙結果は馬政権の政策が有権者によって否定されたことを意味せず、馬政権が両岸経済協力枠組み協議(ECFA)に代表される対中開放政策など、重要方針を変更することはないとみられる。
厳しい表情の馬総統(右2)や呉敦義行政院長(左2)(5日=中央社)
馬総統の応援、効果発揮せず
ただ、馬総統についてはかつてのブームが終わったことがはっきりした。接戦が伝えられ何度も応援に足を運んだ宜蘭県で、国民党の現職呂候補は、民進党の林聡賢候補に8.52%もの得票差を付けられ敗北。花蓮県では党公認候補が当選した傅候補に4万7,000票も引き離され、馬総統応援による神通力は発揮されなかった。
今年8月の台風8号(アジア名・モーラコット)の水害対応の不手際で資質と能力が疑問視されたこと、「中国傾斜」への懸念、総統となって露出度が増え新鮮味が薄れたことなどが要因として考えられる。
直轄市長選、総統選の前哨戦に
馬総統は選挙結果について、「得票率も首長ポストを獲得できた県市の数も理想的とは言えなかった。国民党は謙虚と感謝をもって選挙で伝えられた有権者からの警告に向き合いたい」とコメントした。6日付聯合報は選挙結果を「青空に現れた黒雲」と報じたが、まさにふさわしい表現と言えそうだ。
来年冬には、台北市、直轄市「新北市」となる台北県、直轄市として県市合併が行われる台中市、台南市、高雄市で首長選挙が実施される。いずれも人口が多く、12年の総統選挙の前哨戦としての意義は大きい。国民党の現職には、猫空ロープウェーやMRT文湖線の運営をめぐる不手際で評価を落とした郝龍斌台北市長、不人気の周錫瑋台北県長がおり、厳しい批判票が突き付けられる可能性があり注目される。