中国国民党(国民党)の総統選挙候補者である馬英九氏(前台北市長、前国民党主席)が、台北市長在任中に受領していた市長特別費を私的に使ったことが汚職に当たるかどうかが争われた裁判で、最高行政法院は14日、「特別費は公務の執行を補助する性質のもので、馬氏は慣例に従って使い、詐取などの犯意はなかった」として無罪判決を下した。
初めて見舞われた政治スキャンダルである特別費事件で無罪判決を勝ち取ったことで、馬氏は選挙戦で本来のアピールポイントであるクリーンさを、より説得力をもって訴えることができる見込みだ。予想される控訴審できょうの判決が支持されれば、事件は馬氏が得点を稼いだ結果で終わりそうだ。
ほっと一息の馬英九氏。いなかで会った農民に「がまんして冬を過ごすタニシ」に例えられ、感激した話を披露した
(14日=中央社)
裁判の大きな争点は、そもそも特別費が公金であるかどうかだった。
検察側によると、馬氏は1998年12月から06年7月まで毎月34万台湾元(約122万円)の市長特別費を受け取り、このうち半額に当たる17万元を個人口座に毎回送金し、さらに12万元を周美青夫人の口座に振り込んでいた。検察は、馬氏が昨年11月の1回目の取り調べの際に「特別費は公金」という認識を示したとして、業務上横領罪と公務背任罪で起訴していた。これに対し馬氏は公判で、「特別費は国家が自治体の首長に支給した実質的な手当であり、受領後は公金ではなく個人的資金。特別費を個人的に使うことは事実上慣例として認められており、犯行の意図はなかった」と無罪を主張していた。
判決は馬氏の訴えを全面的に認めた形で、特別費については、02年度の「特別費は県市政府の主任秘書の交際に必要に対し補助するもので、公務を補助する性質のもの」という判例を紹介し、厳格に公金と規定することは無理があると説明した。その上で、「いかなる人をも誤らせていない」として馬氏に犯意があったことを否定した。
控訴断念を呼び掛け
無罪判決について馬氏は、「私はもともと無罪だ」と固い表情で述べ、喜びを顔に表すことはなかった。判決文の内容については、「特別費問題は6,500人に及ぶ現職および引退した首長に大きくかかわる重大なもので、特別費の歴史的経緯や使用者、責任者の認識、客観性と当事者の認識などをはっきり説明した高度な一里塚となるもの」と評価した。そして、今年2月の起訴以来、多大な社会資源を浪費したとして、「むだな消耗はここまでとすることを強く希望する」と語り、検察側に控訴を断念するよう呼び掛けた。
これに対し、馬氏を検察に告発した民進党の謝欣霓立法委員は、「馬氏は『特別費が公金だとは知らなかった』と再三語っている。公然とうそをついており、裁判官も馬氏を無罪とするのに協力した」と非難した。また、民進党文宣部の孟義超主任も、「馬氏が発言をいろいろ変えたことも、偽の領収書も、公金を個人口座に入れたこともみな事実だ。人民は馬氏が高い道徳観を持っているといううそのイメージを見破り、すでに有罪判決を与えている。民進党は控訴を支持する」と語った。しかし、特別費の使用が慣習に基づいたものという判決の指摘については、これまでのところ与党側から説得力のある反論は聞かれていない。
イメージを回復
馬氏はこの事件までは一切スキャンダルがなく、清潔な政治家というイメージで知られていた。かつ穏健な政治手法、容貌が良いこともあって02年の再選を目指した台北市長選挙では圧勝、国民党主席に就任した直後の05年の県市長選でも大勝を導いている。このため、政権奪還の可能性が最も高い候補者として来年の総統選挙で民進党に挑むことになったが、仮に有罪判決が出ていたら、「汚職続きの民進党政権に審判を下す」などの訴えは説得力を持たなくなるところだった。
検察側の控訴断念による判決確定、または控訴審でも勝利すれば、「汚名を着せられそうになった、裁判の名を借りた政治闘争に勝利した」と逆に攻撃カードを手にできる可能性がある。